私の兄は俗に言うシスターコンプレックスとやらだろう。
小さい頃のアルバムを見ていると私が写っている写真は何かと兄が居る。ほぼ全ての写真と言っても過言では無い。
母から聞く自分の小さい頃のエピソードでも、大体は兄が出てくる。「きっと”お兄ちゃん”をしたかったのよ」と母は言うが私が覚えている記憶でも大体兄が居るので干渉しすぎだろうと私は思う。

1つ違いの兄は、今年あのオールマイトが卒業した場所であり、難関と言われる雄英高校ヒーロー科を受験し、見事合格した。
合格通知が来た日には泣き喚きながら部屋から降りてくる兄にヒヤヒヤしたものだ。兄以外全員が落ちたかと思い、次に掛ける言葉を考えたがボロボロ泣き途切れ途切れで聞きづらい言葉で「受かった」と言うもんだから杞憂に終わった。その後家族でお祝いをし、どんな授業をするのだろうかだとかどんなヒーローになりたいだとか皆で語り合った。
その後兄が私に向かって指をさし「ヒーロー科で待ってるゼ」なんて決め顔しながら言ってくるものだから指を逆折りにした。

そんな兄はのりがついてパリッとした新しい制服を纏い、私は2年間お世話になっている少しよれた中学の制服を着る。この制服も今年で最後だと考えながら制服のせいか少し雰囲気が違う兄を横目で見やり、朝食のパンを頬張る
中学に比べると少し遠い兄は私より先に家を出ないといけないらしく、母の遅刻する、という言葉に反応して少し噎せながらも朝食を完食させ、バタバタと足音を立てながら玄関に向かう。そんな兄の後ろを歩きながら着いていき、新しく買って貰っていた靴を履いている所をぼんやり見つめる。
「行ってらっしゃい」
そう言うと靴を履き終わった兄は振り向く。少し驚いた表情を見せながら素晴らしい笑顔で
「行ってきます!」
そう返し、ドアを乱雑に開けて家を出た。

同じクラスに相澤消太という友達が出来たらしく、今はその人の話題で持ちきりだ。きっと兄にとっていい友人でありいいライバルなのだろう。語る兄の表情は生き生きしていた。今度家に連れてくるな!などと言うが話を聞いている以上合理的な性格らしく、家に来そうにないなと考え適当に返事をしていた。
そう思っていたのもつかの間、その人が家にやってきた。
恐らく兄の中間試験のテスト勉強の付き合いだろう。中学の時からテストが近くなるにつれよく友人を誘い勉強と言い張るだけでゲームをしていた事を思い出す。毎回泣いているのに懲りない兄だと思う。
部屋に行く2人を見やり、リビングに向かう。2人分のコップを出し、お盆に乗せた。ジュースとかの方がいいのだろうが、冷蔵庫を開けるがお茶しか無く、コップに注ぐ。零さないよう慎重に兄の部屋の前まで向かい、声を掛けた
「お兄ちゃん開けて−」
「おう、ちょっと待ってろ!」
ドアを開けて貰い、部屋の端から引っ張りだしてきたであろうテーブルの上に乗せる
「兄がいつもお世話になってます」
「ああ、お前が噂の妹か」
「そうだぜ!可愛いだろう?」
「お兄ちゃん何話してるの。お茶しか無いですがどうぞ」
「ああ、有難う。・・・よく出来た妹だな」
「だろ?何処に嫁に出しても恥ずかしくないぜ!」
「気が早いよお兄ちゃん。相手も居ないし」
「相手が出来たらぶん殴る」
さっき言ってた言葉は何だったのか。ビタッという音をさせ嫁にはやらんぞと叫びひっついてくる兄を剥がそうとするが全く動じない。相澤さんに助けを求めそちらを見るが少し引き気味でこちらを見ていた。
なんとか自力で兄の腕から抜け出し、ごゆっくりどうぞと足早に部屋から出る。後ろからドンッという音がした。きっと勢い余ってドアに激突したのだろう。友人の前でも通常運転な兄を想像し、笑いが込み上げた

離れた後も兄の事を考えている私も存外兄にシスコンとは言っていられないかもしれない。