幼馴染み4の続き

遠くの方で音楽が聴こえ、それから何度か意識を失いながら目をこじ開けた。
「ここは…」
白い天井に仕切られたカーテン、寝転んでいたベットと着替えられていない体操服。推測するにここは保健室であり、どうやら私は運び込まれたようだ。
傍に制服とと教材が入った鞄があったので、とりあえず着替えて先生に起きた事を伝えようとカーテンを開いたものの、そこは間抜けの殻であった。職員室にでも居るのかと時計を確認すれば下校時刻から既に30分程が経過しており、先程ぼんやり聴こえていたのは蛍の光であったのかと推理した。
眠りこけていたお陰か朝よりかはほんの少しスッキリした体であるが、熱があるのか些か怠いものは怠い。
『熱あるっぽいから今日は家来ないでね』
コミュニケーションアプリを起動して幼馴染みに一報を入れ、早く帰ろうと途中マスクを見つけたので1枚拝借しつつ怠い体を引きずって職員室に向かった。
『帰れんのか』
『気合で』
『今何処』
『学校』
職員室に向かう途中、幼馴染みから連絡が入った。教師が居ない事を確認しながらスマホをいじり返事を打つ。フラフラした足取りであるが、いつか家には辿り着くだろう。現に、職員室も無事到着して帰宅する事も伝えれたしきっと問題無い。
『駅で待ってろ、後数駅でそっちに着く』
迎えに来てくれるのか、こういう時はちゃんと面倒を見てくれる幼馴染みに対して笑みを浮かべながら、既読を付けてスマホをスカートのポケットに入れた。

駅に到着すれば、既に幼馴染みは椅子に軽く腰を掛けて気怠げそうに座っていた。
「んで、何か言う事は?」
「大変申し訳ございませんでした」
「だから言っただろうが…」
いや言われてないけど。唐突に「明日学校行くな」と予言紛いな事しか言われてないけど。脳内で彼の言動に突っ込みを入れるが生憎口喧嘩をする体力も無いので言葉には出さない。
「次の電車来るまでまだ時間あんだろ。それまで座っとけ」
乗車口付近にある4つ程並んだ椅子には既に人が座っており、立ち上がった彼に促されて空いたその席に座らせて貰う。彼だって部活で疲れているだろうから座って休憩したいだろう、そもそも私など放置して先に帰宅すれば良かったのだ。少し申し訳なさを感じながらも体の怠さは抜けきらないので有り難く使わせて貰う。
鞄を膝に置いてそこに顔を埋めるような体勢で居れば、余程重症に見えたのか背中をさすられた。
「おい大丈夫か」
「大丈夫です」
「ダウト。声に覇気が無え。」
そりゃ恐らく熱が出ているのだ、そんなメリハリのある声なんか出せる筈も無いし無茶を言わないで欲しい。
なんとか電車に乗り込んでは席を2人分確保出来た。正直立ったまま電車に揺られる自身は無かった為、座れる事が出来るのは大変有り難い。先程と同じ体勢を作って家の最寄りまで耐えようとしていれば、頭をちょんちょんと突かれたので彼の方を見た。
「なに」
「肩」
「…ありがと」
ほんと余計な言葉は一言多いのに、大事な言葉は一言少ない。ただまあ、その一言でなんとなく言いたい事を察知した私は有り難く彼の肩に凭れ掛かり、目を閉じたのだった。
「おい…おい、起きろ」
「ん…」
「次の駅で降りるぞ」
どうやら眠ってしまったようで、肩を貸してるせいか身動きが取れない彼は私の手をトントン叩いて起こしてくれた。正直眠気がまだ抜けきらないが、ここで睡眠を取れば帰りが遅くなり余計にしんどい思いをするのは目に見えている。
「ほら行くぞ」
「うん」
手を引っ張られて電車から降り、帰路に着く。「あっちぃな」と繋いでる私の手の感想を述べる彼に、なら手を離せば良いのにという感想が出るがこの方が下を向いてても比較的安全な為、特に突っ込む事も無くただ手を握られるのであった。

この後甲斐甲斐しく世話を焼かれ、次の日には熱が下がっていたのだが念の為休んでおけという事で学校と監督に連絡を入れた。
昼休みの時間帯であろうか、高尾と緑間のグループチャットに通知が入った。
高尾『名前ちゃーん大丈夫?』
名前『熱は下がったよーありがと』
緑間『自己管理が出来ていない証拠なのだよ』
高尾『こう言ってるけど真ちゃん超心配してるからね!』
緑間『余計な事を言うな高尾』
名前『うはーありがとね』
余計な事を、というフレーズに少なくとも心配はしてくれていたのだとツンデレ全開な緑間に、少しだけ嬉しさが込み上げたのだった。