ウィンターカップ予選決勝リーグが開催された。
勝ち上がった泉真館高校、誠凛高校、霧崎第一高校、そして私が現在通っている秀徳高校の4校が出揃い、ここから上位2校がウィンターカップ出場が決定される。
キセキの世代、緑間真太郎を獲得しているうちは正直言えばウィンターカップ出場圏内だろう。東京三大王者と呼ばれている泉真館も勝ち上がってきているが、今ではキセキの世代がバラバラに進学した為にパワーバランスが崩れているし、正直言ってキセキの世代を獲得していない泉真館には勝てる。嗚呼、霧崎第一にも。
正直言えば、誠凛が1番の目の敵だ。
幻の6人目である黒子テツヤは勿論の事であるが、キセキならざるキセキと呼ばれている火神大我の存在が何より恐ろしいのだ。以前試合した時は、試合中に恐ろしい速度で成長し、緑間のシュートを連続ブロックして誠凛は私達に勝利した。最後はまあ、黒子の手柄であったが。
彼らに勝てるかどうかはさて置き、ウィンターカップに出場する観点で見れば私達1校を縛ったと仮定し、残りの枠は1枠。ここで誠凛が来るのか、はたまた霧崎第一が来るのか。ここが分岐点だと推測する。
キセキの世代に一歩及ばなかったが、無冠の五将と呼ばれる逸材が居る。霧崎第一にはその逸材である花宮真が存在している。
勉強せずとも模試で上位を普通に取れる程の天才的な頭脳、そこまで磨かなくても無冠の五将と呼ばれる程度に才能を持っている運動神経。一見完璧だと思われるような人間であるが、その性格は最悪最低であり神は二物を与えないという言葉がとても似合う男だ。
彼は楽して勝ちたいという理念を持っており、自分自身のスキルを磨く事はあんまりしない。それよりも他人の歪んだ表情を見る為に、「審判からどういった角度でどうすれば相手を怪我させれるか」と周囲のスキルアップをしている程度である。
彼は去年、誠凛の7番を故意に潰した。きっとそれは誠凛の人達に周知されている事だろうし、仲間意識が強い分頭に血が上ってプレイに支障を来した場合、どちらが勝つか分からない。ここ半年のスコアを見て誠凛の快進撃を考えれば彼らが勝つのではと考えるのだが、そう単純なものでもないだろう。

秀徳対霧崎第一戦。
彼の性格からして、2勝すれば良いと考えて秀徳戦には手を抜くだろう。いや、泉真館と誠凛の解剖をする為に自分は試合に出ず2軍辺りを出すに違いないと考えていたのだが、予想は現実となった。
ベンチから客席を見れば緑色のジャージを着ている集団を見つけた。奴らはこちらの試合を見向きもせずに、もう片面で試合をしている選手に視線を注いでるようだ。
「行くぞ高尾、名字。」
「あー待ってよ緑間早いわ」
「人事を尽くしていない。反吐の出る試合だったのだよ」
真面目な緑間にしてはそう思うかもしれないが、立派な戦略だろうと思ってしまったのはきっと私も彼に毒されているのかもしれない。

こうして全ての試合が終了した。
「クソォォオオ!!!」
幼馴染みの叫び声が木霊した。嗚呼、負けたんだ。霧崎第一のプレーは嫌いであるが、花宮真のプレーは結構好きだったのだ。そりゃバスケを教えてくれたのは彼であったので、あんなクソ野郎だけど肩入れしてしまうのは仕方無い事だろう。ベンチから隣のコートを盗み見ては項垂れる彼を一目し、今年一杯は見る事が出来ない事に少し寂しい気分になった。
「お疲れさん真ちゃん!」
「ふん、当然の結果なのだよ」
「ういーお疲れ。私ちょっと行くとこあるから」
秀徳が勝った事を確認してベンチに挨拶したレギュラー部員達は、着替えやその他諸々の準備があるだろうと仮定してその場から離れる事を伝える。「おーいってらー」と高尾の声を聞いたと同時に鞄に忍ばせていた1枚のタオルを確認し、バタバタとその場から立ち去って人気の無い廊下を走る。
「やっぱここに居た」
「…んだよ」
私達が試合していたコートの出入り口付近、人気の無い薄暗い廊下の椅子に彼は座っていた。案外分かりづらい所にでも居るのかと思いきや、存外そうでも無く目的の人物はすぐに見つかり秀徳面子に置いて行かれる心配は無さそうだと安堵する。
「試合、お疲れ様」
項垂れて座ってる為表情は見えない。相当落ち込んでいるように見えるがきっと内心では誠凛に対する負の感情が巡り巡っているのであろう。そんな彼の前に膝をつき、頭にタオルを掛けて髪をわしゃわしゃ乱してやった。
「え、ちょ、まこちゃん?」
グイッと体を引っ張られるや否や肩に顔を埋め、背中に腕が回った。離れろと意思を込めてグイグイ彼の体を押すが私以上の力を込めて離れようとしない彼に、途中から諦めてその体勢のまま髪を撫でる。
「頑張ったね」
「るせぇ」
「ういっす」
私の慰めは彼にとっては癪のようなので、ただただ彼の気が収まるまで頭や背中を撫でるのであった。