※幼馴染設定

学校は休みであるが部活は午前のみある土曜日、休む暇無く仕事をしている父がたまたま帰ってきた日の事であった。
「名前、パパのご飯美味しい?」
「んーまい」
「なら良かった!」
共働きの為生憎母は仕事で居ないのだが、以前見た時よりも少し疲れてる気がする父と時間を共にする。こういった時間は久しぶりだと懐かしみながら、毎週同じ曜日の同じ時間帯に放送される長寿アニメを見つつ、ご飯を口に運んでいく。
「そういや名前は好きな子とか出来た?」
「いーえ」
「変な男からモテたり言い寄られたりしてない?名前は可愛いからパパ心配!名前はパパと結婚するもんね!」
「お父さんそろそろ娘離れした方が良いと思う」
「ガーン!!!」
もう高校1年生だぞ、父親に引っ付くような時期も随分前に終わったしある程度自立してるきた娘にそれはないだろう。子供の時に言う「父親と結婚する」というのはただの戯言であるし、環境が変われば他に良い人間が現れるに決まっている。好きな人や一時期恋人が居た時期もあったのだが、これは父に言えば余計に拗れるだろうから秘密だ。
そもそも、もう後数年もすれば社会人になる私に対する父の異常な溺愛っぷりはそろそろ勘弁して欲しいものだ。能天気な母を見習って欲しいと内心反抗心が芽生えて少し強い口調で突っぱねる。
シクシクという効果音が滲み出る父を余所に、アニメの続きを見ていた。
基本的に事件を推理していく話であるが、稀に主人公とその幼馴染の子のラブコメが入ってくる。今回の話はラブコメ感が強い話であって、ついつい見入ってしまった。
幼馴染の影響でよく本を読む私は、結構漫画も読んでいたりする。小説も好きであるが中学の頃は周囲が漫画をよく貸してくれてありがたく読ませて貰っていたのだ、話題性も小説よりかは断然合わせやすいし話のネタにも困らない。まあ、中学の女子というのは思春期に突入するが故か恋愛漫画が大変多く、「こういった関係性に心ときめく」やら「こういったシチュエーションが好き」とかいった話が多かったが、まあそれなりに楽しんでいた。
それ故にモダモダしていた2人が急展開した事にときめきを感じた。恐らく青い鳥マークのSNSは今頃大荒れであろう。このアニメは歴が長い故にファン層も結構幅広く、恐らく知らない人間はテレビを見ない人間位では無いだろうか。恋愛漫画が大好きな友人はどういった事を呟いてるのだろうかと想像しては1人食事中に楽しみ、そのまま自室へ向かった。
『やべ〜〜〜!!!今回の話めっちゃやばかった!!!』
『やっと展開あったー!!!嬉しい!!!』
『はー幼馴染とか最高すぎる』
まあ見事に荒れに荒れていた。同じ人物が連続投稿したかと思いきや、ある程度の人数がずらっと呟いてるお陰でタイムラインを遡るのが結構大変である。まあそれでも楽しく見ながら私もぼんやり思った事を呟いた。
『あー幼馴染と付き合うとかやってみたい…』
幼馴染が故にくっつきそうでくっつかないモダモダした関係性がとてつもなく好きで、ついつい応援したくなってしまうものだ。さっさと付き合えば良いのにと漫画の話で靄を抱える時もあるのだが、あくまで心情が分かる客観的に見てそう思うのだ、相手の心情が分かっていたらそう苦労はしない。それにあくまで漫画の話であるし。
ピロン
「ん?」
SNSアプリから通知が届いた。友達が私の投稿に共感して話しかけに来てくれたのだろうか、早速アプリを開いて通知を確認する。
「は?」
SNS上で繋がっている幼馴染からのツイートであった。先程投稿したものに連絡が届いていた。
名前『あー幼馴染と付き合うとかやってみたい…』
┗まこ『なら付き合うか?』
ただのシチュエーション上での憧れとして挙げただけで、確かに付き合うとかやってみたいとは言ったが本気だった訳では無い。彼の頭脳であればこういった事も見越してるだろうに、何故そんな事を言ってくるのか。え、いや、まさか。いやもしかしたら。私の事が好き…なのか?それは小さい頃言ってた事であって。そもそも私は彼の事が…?グルグル色んな感情と思考が浮かんでは沈んで、彼の戯言だったとしても私の中ではこの一言で心臓が暴れ狂っていた。息を大きく吸って、吐く。少し落ち着いた頃に私は画面とタップして幼馴染の投稿に返事をした。
『ちゃんと面と向かって言ってくれるなら応える』
あー、これがきっと私の答えなのだろう。
幼馴染が窓から部屋に入ってくるのを察知しながら、私はそちらに顔を向ける事は出来ず、ただ緊張した面持ちで携帯を握りしめる事しか出来なかった。
拝啓、リビングで未だに泣いてるであろうお父さん。どうやら貴方の娘は悪い男に引っかかってしまったようです。