※幼馴染主
※ゲスは存在しないピュアな花宮真

「名前ちゃーん!あーそーぼー!」
インターホンのスピーカーから大きい声でそう聞こえた名前は、うげえと表情を歪ませ手に持っていた人形に力を込めた。母が来客を迎え入れたようで、その主は軽い足音をバタバタ鳴らしながら名前に一直線に走ってくる。のだが、名前は完全にスルーを決め一時手を止めていた人形遊びを1人続ける。
「名前ちゃん!あそぼ!」
「いや」
「何で!まこ、名前ちゃんと遊びたい!」
「まこちゃんと遊ぶの楽しくないもん」
クリクリした目に癖のないふんわりとした髪、そして麻呂眉に糸を引いたようなオタマジャクシみたいな眉毛。名前に会えて嬉しいと表情に滲み出ている笑顔に比べ、名前は死んだ魚のような目を浮かべた仏頂面だ。
名前は人形遊びやおままごとを好む傾向があるのに対し、遊びたいと言ってくる花宮の傾向は戦隊モノが多い。たまにままごとで遊んで貰えるが、男と女の遊びたいものは基本正反対な上にお互い我が強いので毎回遊びについて衝突する。それが面倒だった名前は1人遊びの楽しさを見出してしまい、それ以降花宮邪険に扱うようになった。
「いいもんっまこだって1人で遊ぶから!」
そう言っては母にテレビを付けて貰って目の前を陣取っては、わざわざ花宮の為に録画していた戦隊モノを再生する。
花宮の胸中は「これで名前ちゃんがこっちに来て一緒に遊んでくれる」である。あえて突っぱねるような言動をすれば此方を気にしてくれるのではないかと考えた。
名前の胸中は「まこちゃんも1人で遊んでるし構わなくてラッキー」である。構って欲しさに手に持ってる玩具を奪ってくる彼を気にかけず、自分の遊びに夢中になれるからだ。
お互いの気持ちは交差せず、痺れを切らした花宮が名前に特攻し、喧嘩になって花宮のみ号泣する事となった。

「名前ちゃーん!あーそーぼー!」
インターホンのスピーカーから大きい声でそう聞こえた名前は、短い手足を素早く動かしながらリビングから姿を消した。もう人形を取られて投げられるのは勘弁して欲しかったからである。思い通りに行かないとすぐに泣いて物に当たる花宮の対応は大変面倒であると幼いながらも名前は既に察知しており、その回避行動として彼の見える所に居なければ関わらずに済むんじゃないかと思い至ったからだ。来客を出迎える母にも気付かれないように前日から見つけた隠れ場所まで走った。

「名前ちゃーん!」
「あれ?名前ちゃん居ない!」
「名前ちゃん、何処ー!」
リビングまで一直線に走って行った花宮は、その場に居ない名前の姿を探して辺りを見回す。花宮が見える範囲には彼女が居ないようで不思議そうな表情を浮かべながら、そのまま放置されていた玩具を見て唇を尖らせた。
小さな彼の後ろから着いてきた母親もつい先程までそこに居た愛娘の姿が忽然と消えている事に疑問符を浮かべ、仕事で忙しい父親の為に愛娘と血は繋がっていないが家族同然である花宮を撮影しようと成長記録用のビデオカメラを自分の手に用意した。
ビデオを再生した時、丁度花宮が少し不安混じりの表情を浮かべて母親に訴えた。
「名前ちゃん、何処行ったの?」
「名前ね、今隠れんぼしているみたいなの。真君探してくれる?」
「うん!僕が探し出すね!」
かくれんぼ!名前ちゃんが遊んでくれてる!ぱあっと笑顔が咲いてバタバタ足音を鳴らして部屋中を駆けずり回る。
「名前ちゃーん!ここかなー?…居ない…」
「あ!ここかも!…居ない!」
「名前ちゃん!何処行ったの!」
最初は自信満々に探していた花宮であったが、全く名前が居る気配が無く眉を寄せ頬を膨らませてご立腹と言わんばかりの表情を浮かべる。次第に手あたり次第まだ入って居ない部屋を探し、クローゼットや大きな箱を開けて中の見るがお目当ての人物は見つからない。
「あ!これ名前ちゃんがずっと持ってるぬいぐるみだ!」
名前の部屋に入れば、ベットに鎮座しているぬいぐるみに一直線に走っては両腕で抱きしめた。これで少しは寂しさも紛れるし、ぬいぐるみに釣られた名前が出てくるかもしれない。花宮はそのぬいぐるみを名前ちゃん捜索隊の一員にして小脇に抱えて足を動かした。

「あ”あ”あ”あ”あ”!!!名前ぢゃ…どこぉ〜〜〜!!!」
「あらあら」
「みづがんな”い”〜〜〜!!!ゲホッう”ぅ〜〜〜!!!」
「ほら真君、おばちゃんが抱っこしてあげようね」
「わ”ああ”ああ”」
名前の部屋、父の部屋、母の部屋、使っていない物置部屋。全ての部屋を見たのに何処を探しても見つからない名前に、遂に花宮は泣き出した。
名前の母親はビデオを停止して泣きじゃくりながら両腕を差し出す彼を抱き上げる。以前抱きあげた時より少し重たくなった彼の体を落とさぬよう抱え直し、落ち着かせようと背中をトントン叩きながら、消えてしまった愛娘は何処に行ったのかと疑問符を浮かばせながらリビングに戻った。
「あ」
「あら、何処に隠れてたの?」
数十分全ての部屋を探しに探し回って見つからなかった愛娘は、花宮が来る前と同じ遊びを続けていた。ぽかんとした表情でこちらを見ては泣きじゃくる花宮を見て顔を顰める
「いだああ”ああ!!」
顔をぐしゃぐしゃにしながらも両目は名前を捉えており、バタバタ両足をばたつかせて降ろせと催促する花宮の両足が地面に着いたと同時に走り出した。
「名前ぢゃ…!うう”う!!!」
「来ないで」
「やだぁ!!!」
座ってる名前の背中に勢いよく引っ付く花宮は大泣きした後そのまま眠ってしまい、名前は母親に助けを求めるのだった。