いっけな〜い!遅刻遅刻!
私、名字名前!霧崎第一高校に通う2年生!丸眼鏡と三つ編みをした至って普通の女の子!
成績も優秀で真面目な優等生ちゃんで貫いてるんだけど、まさかアラームが鳴らず寝坊しちゃった☆
新学期が始まって2日目で遅刻だなんて悪目立ちするに決まってる〜!
これから私、どうなっちゃうの〜!?
…って言ってる場合じゃなかった。真面目にやばいので運動部顔負けレベルの全速力で足を動かす。
遠くの方で正門が見えた。同じように遅刻をしたのか走ってる生徒が数名居て仲間意識が芽生える中、なんとか校内を潜り、教室に滑り込んだ。
私が入ってすぐ予鈴のチャイムが放送された。…せ、セーフ!!!ぜいぜい息を切らしながら自分の席に座って呼吸と乱れた髪を整える。
あっぶねーまじこれやばかった奴。後ちょっと気を緩ませて走るのが遅かったら遅刻してた奴。あー運動部ばりの運動神経してて良かったわ。あ、いや、私帰宅部だけど。
走ってずれてしまった度の入っていない丸眼鏡を掛け直し、机に教材を押し込む。あーまじ今日の帰りにでも目覚まし時計買わないといけないな。いや、電池か?どちらにしろ放課後に電気屋に行く予定を組んだ。

「名字さんおはよう」
「あ、おはよう花宮君」
ギェーーーーー!!!!来たなスクールカースト上位の男・花宮真!!!
1年の時も同じクラスだったのだが、何故かこの男、わざわざ私に毎朝挨拶をしてくるようになったのだ。何の嫌がらせだ???いやほんとまじで。
「今日はどうしたの?いつも早いのに居ないから休みかと思ったよ」
「あーっはは…寝坊しまして…」
「へぇ、名字さんも可愛い所あるんだね」
爽やかな笑顔を浮かべながら臭い台詞を吐く彼に対して鳥肌が立った。いや、可愛いは無いだろ可愛いは。何処をどう見ても陰キャな筈なんだが???陰キャに見えないのか?究極の陰キャだろこれ???
話は脱線するが、中学の頃は家庭環境が環境なだけに、荒れに荒れていた。まあ今では漫画の都市伝説だと思われるような盗んだバイクで走ったり、縄張り争いでバカスカ喧嘩しまくったり、男と色んな意味で遊びまくったりetc…まあ聞くに堪えないような行いをやりまくっていたのだ。酒や煙草に手を出さないだけマシであろうか?
高校に上がる時に決意したのだ。家に居たくないのならクラスメイトとショッピングに行ったり、マジバで駄弁って時間を潰せば良い。別にチンピラ路線を走るのでは無くもっと健全に遊べば良いと。
となれば大人しめの人間になれば良いと思った。霧崎第一はお坊ちゃんお嬢ちゃん校と言われるだけあって偏差値が高い、頭の良い人間が入る場所だ。つまりこれは物静かな女になれば良いのだと思った。
物静かな女と言えば?眼鏡を掛けてる、前髪が長い、三つ編みをしている、俯き加減、あまり人と喋らない。
これだ。きっとこれなら私も普通の人間に溶け込める!そう思っていた
私にとっての高校デビューは失敗に終わった。それはそれは盛大に終わった。ゴリッゴリの陰キャは居なかったのだ。まあ別にこんな見た目をしていようが中身はあまり変わらなかったので、喋り好きなお陰かそれなりに世渡りが上手く出来た方だと思うし、私の事を同士だと思って来てくれた子も居る。
スクールカースト上位の子と教室内でたまに会話する事はあっても、放課後遊びに行く程仲良くはなれなかったし全体的に見ればスクールカースト下位の人間だ。
対して目の前でにこやかな笑顔を向けてくる花宮真は、成績優秀で常にテストはトップクラス、運動神経も抜群で特にバスケをやらせればボコスカ点を入れ、物腰柔らかで非の無いような男であった。
そんな花宮はクラスの人気者だ。恋愛に関してなら女は勿論一部の男にさえも好かれている。まーめちゃくちゃモテる。モテ男だ。畜生羨ましい可愛い女の子分けやがれ。
そんな?スクカー下位の人間に??カースト上位中の上位な花宮真は懲りずに私に話しかけてくるのだ。ほんと何でだ???意味が分からん。ほんとやめてくんねーかなこちとら静かに生きようと頑張ってんだよ。周りの人間ギャーギャー煩いからあっち行けよ(美人な巨乳除)。
まーこんな非の無い男にも悪い噂というものはあるものだ。霧崎第一の中では聞いた事は無いが、私の舎弟…後輩が言うには”バスケ部の悪童””女を食い散らかしてる””ゲスなクズ野郎”だと言うのだ。別に聞きたいから聞いた訳じゃなく、花宮が私に話しかける前に聞いた噂をただ覚えていた。
まあ非の無い人間なんて居ないわな。むしろ猫被って臭い台詞を吐いてるよりかは好印象だわ。
頭の悪い女が好きだとも聞いた事があるが、食い散らかして次は頭の良さそうな女でも食ってみようとでも思っているのか?
いや待てよ、もしかしてあの男…実は私が彼の噂を耳にした事を知って潰す為に私に声掛けてきてるんじゃないか…!?いや、でもそんな事有りえるのか?…無くはないかもしれない。
それに、地元では私の名は知れてるだろうし、相手も風の噂で聞いているかもしれない。私の事がバレていたらこの先の学校生活はお先真っ暗だ。
ならば先手必勝では?相手に潰される前に潰す。それが私のモットーだ。待ってろ花宮真…!

あの発想に至るまで随分時間が掛かってしまったが、相手がその気なら仕方ない。この喧嘩、買ってやろうじゃないか!そう思っていた矢先の事であった。奴からメールが来たのだ。
メアドなんか交換する気など無かったのだが、スクカー下位の人間が上位の人間に逆らえば色々怖い目に遭うのは目に見えてる。この世は弱肉強食、少し反抗的な態度を取れば上位の人間は取り巻きに指示を出して弱者を食らう。つまりいじめである。わーこわーい。
ぽちぽちスマホを操作して受信したメールを開いた。
【俺、名字さんの事が好きなんだ。付き合ってくれないかな?】
喧嘩吹っ掛けてくるの早いな花宮…!
先程も言った通り、スクカー下位の人間が上位の人間に逆らえば怖い目に遭う。
『えー名字さん花宮君の告白断ったの!?』
『うーわ花宮君が可哀想ー』
『調子乗りすぎじゃね?陰キャの癖に』
うん、ありありと目に浮かぶ。私はいじめに詳しいのだ、そういった陰湿な加害者には拳で黙らせていたからな。物理で。
だからと言って「はい」と言ってしまうのもそれはそれでやばいんじゃないか?
『あの陰キャと花宮君が付き合ったの!?』
『は?意味分かんない。何であの陰キャなの?』
『うーわまじうっざいね。調子乗りすぎ』
うん、ありありと目に浮かぶ。
これどっちに転んでもあれじゃん、いじめられる奴じゃん。
確か花宮と付き合って続いたのは最長3か月という噂だとか舎弟が言っていた気がする。なら最長3か月我慢すれば懐に入れば情報も集められるし、此方から奇襲を仕掛ける事が出来るだろう。
【お願いします】
私は花宮のメールにそう返事した。
待ってろ、花宮真!お前の計画全部ぶっ潰してやっからな!