夕食後、リビングに設置してある少し背の低いテーブルを囲みながらのんびりクイズ番組を眺めている時。
特にこれといった関連性も無い、ただふとした思い付きの発想であった。
「ねーまこちゃん、まこちゃんから愛の言葉言われた事無い気がする」
「ふーん」
「聞いてる?」
「おー」
「聞いてないなこりゃ」
背中を丸めテーブルに顎を置きながらテレビを見ていた名前は、花宮の方を視線だけ向けてそう投げかけた。1度考え出せば抜け出せなくなったので言葉にしてみたのだが、話半分どころか全く聞いていないであろう彼の返答は適当であり、手元に持っている物に集中している。
「何それ」
「琵琶」
「ふーん」
ちまちまと手のサイズに合っていない琵琶を、懸命に薄皮を向いてる彼を一目してテレビに視線を向ける。
彼との付き合いはそれなりに長い。中学1年の時に同じクラスになった事がきっかけで少しずつ仲良くなる事が出来たのだ。お陰で今では同棲している恋人同士まで発展しており、特に不満や不自由の無い生活は出来ている。
のだが、矢張り恋人同士であれば好きだとか言われたいと思うのは当然の事では無いだろうか?告白してきたのは相手であったが、その時も好きだとか言う台詞は無かった。1度気になってしまったものを今更考えるなと言われる方が難しい。
「ねーまこちゃんんん〜〜〜」
「うるせえ今俺はやる事があんだよ」
「彼女の話を聞くより琵琶を剥く方が大事なんですか〜!」
「おう」
「失礼な奴だな…」
CMに入ってやる事が無く、未だに集中してる花宮の腕を揺すって反応を見ても特に変わりは無い。むしろ少し眉間に皺が寄った程度で彼は名前の話を聞く選択肢は甚だ存在していなかった。全く一体いつまで剥いているのだろうかと皿を見てみれば、着々とその数は減っているので彼の腹の中に納まっているのだろう。
番組が再開された事によって彼のちょっかいを止めれば、少しして花宮は名前に琵琶を押し付ける
「ん」
「くれんの?あんがとー」
普段なら「自分でやれ」と一蹴してくれる事など無いのに、珍しい事もあるものだ。かぱりと口を開ければそこに放り込まれた琵琶を一口齧り、咀嚼する。余った分は彼の口の中に消えていってしまい、もう少し大きい口を開けて食べれば良かったとテレビの方に視線を向けた。
「…お前には分かんねえわな」
「???」
何が?そう問いただすも花宮は何でも無いの一点張りで真相を教えてくれる事は無かった。

琵琶の花言葉
『静かな思い』『密かな告白』『あなたに打ち明ける』
(も、もしやこれって…貴重なデレだったのでは…!?全く気付かなかった!ま、まこちゃ〜〜〜!!!)