※幼少時代捏造
※ピュアッピュアでゲスさ全くありません。

『あのね、あのね、真ね、大きくなったら名前ちゃんと結婚するんだ!』
『ふーん』
『だからね、真以外の子を好きになったら駄目だよ!』
『ふーん』
『聞いてる?ねえ名前ちゃん!』
『あっち行って』
『何で!』
中学最後の年末に大掃除をする事となった名前は、リビングの奥底に眠っていたディスクを掘り起こした。同様に他の場所を掃除していた母親に尋ねてみれば、それはどうやら名前と隣に住んでいる幼馴染みの幼少期の記録のようで、結構な枚数のあるそのディスクを全部自室に運んでは大掃除を再開した。
掃除も粗方終わったし興味本位にディスクを再生機に掛けて自室でぼんやり眺めていた。小さい頃から特徴的な麻呂眉は健在であるが、今とはだいぶかけ離れた性格をしていた。小さい頃はきっと1つ年下である名前を妹として大層可愛がっていたのか、甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている姿がディスクに収められていた。まあ、小さい頃の名前からしたらその世話が逆に迷惑だったのか常に眉間に皺が寄ってあまり良い表情を浮かべる事は無い。その彼を突き飛ばして取っ組み合いの喧嘩になり、両親が止めれば彼は大泣きして親の足に縋り付き、名前は特に気にする事も無く遊びの続きを始める。
次のディスクはダイニングテーブルに座っている彼と撮影しているだろう母が会話をしている所から始まった。
『名前ちゃん、何処行ったの?』
『名前ね、今隠れんぼしているみたいなの。真君探してくれる?』
『うん!僕が探し出すね!』
彼が家に遊びに来た事を察知した名前が何処かに隠れたようで、彼は両手に握りしめてたマグカップを置いてバタバタと足音を立て、時折「名前ちゃーん!」と叫びながら家中を駆け回っている姿が撮影されていた。
「あ!これ名前ちゃんがずっと持ってるぬいぐるみだ!」
途中で名前の部屋に入っては彼が一直線にうさぎのぬいぐるみの方まで行き、それを抱きしめて共に名前を捜索していた。がしかしどの部屋を探しても見つからず、遂に彼が泣き出した所で記録は止まっており、また次のディスクに手を伸ばして再生ボタンを押す。
「おい何してんだ」
「うおっびっくりした。ノック位してよ」
「したっつーの」
名前が振り向くと、そこには幼馴染みである花宮真が呆れた顔を滲ませながらベットの上に立っていた。開いた窓を確認するに、花宮の部屋から直接侵入したのだと推測する。
名前と花宮の家は隣接しており、窓から互いの部屋を行き来する事など容易いものであった。カーテンを開ければ相手の部屋が丸見えであり、窓を施錠していなければいつでも出入り自由。小さい頃の習慣も相まってか互いの窓は常に施錠されていないので、帰宅すれば相手が居る事や部屋の中の私物が相手の部屋にある事など日常茶飯事である。
「何でこっち来たん?何か用事でもあった?」
「小説借りた」
「あー成る程そこ片付けててね」
「んで、何見て…んっだよこれ!?」
相手も部屋の掃除をしていたのだろうか、ほぼ借りパク状態であった数冊の本を一気に持ち込んで来てはベットの上に乱雑に放置されている。彼はどうやら名前が見ているビデオに興味を示していたようで、片付ける事もせずにリモコンを引ったくってテレビの電源を落とした。
「何って、小さい頃の記録でしょ」
「何でこんなのあんだよ!」
「知らなーい。はー小さい頃のまこちゃんはこんなに可愛かったのに」
何でこんなにゲス野郎になってしまったのだろうか。リモコンを放り投げて律儀に小説を片付ける彼を尻目に、テレビの電源ボタンを押して再度ビデオを見る。
『あのね、結婚する人同士はちゅーするんだって!名前ちゃん、ちゅー』
『あああああああああああああああああああああああぼああああああああああああああああああああ』
「はぁ!?!?!?」
『パパうるさい』
「まこうるさい」
テレビの中の小さい名前と花宮は唇を合わせており、遠くの方で名前の父親が泣き叫ぶ声が録音されていた。ビデオの中の母親と名前のツッコミが被った事に少し笑みを浮かべる名前であるが、花宮にとっては幼少期の記録など黒歴史に過ぎない。片付けてない小説を片手に持ちながら名前からリモコンを引ったくろうとするが、名前も名前でされるがままは嫌なので花宮の腕からリモコンを遠ざけて攻防戦が始まった。
こういった短気な所は小さい頃からあんまり変わって無い。それはそれは鬼の形相でまるで部活の試合のような動きを繰り出す彼に、絶対負けないと意気込む名前であった。

数分後、テレビの元電源を消せば解決したのではないかと花宮はゼイゼイ息と服を乱しながら勝ち取ったリモコンを手に項垂れた。