隣に住んでる幼馴染の窓を勝手に開けて部屋の主に言葉を投げかけた。
「まーこーちゃーん勉強教えてー」
「面倒」
「ちぇ」
現在通っている秀徳高校は、それなりに偏差値が高い進学校である。故に勉強の速度もそれなりに早く出る問題の難易度も少し高い、1度躓いてしまったらその後が相当苦労するだろう事は目に見えている。たまに幼馴染である花宮真に勉強を教わろうとするのだが、1番最初に出る言葉は必ず「否」だ。それも毎度の事であるので予想の範囲内であり、切羽詰まっていない今回は大人しく引き下がる。
幼馴染の頭脳には劣るが、幸いにも授業を受ければある程度は理解出来る程度には頭は良い方である。躓いてしまえば近くに天才的な頭脳を持つ彼が居るので好物のカカオ100%チョコレートで釣って教えて貰えば問題無い。彼の好物は少し高価なものであるので釣りやすい。部活に励む学生は小遣いが無いのだ、それは幼馴染も例外では無い。
余談であるが、以前行われた中間テストは幼馴染の手を借りずに挑めば学年1位という成績を収め、どや顔でその結果を見せれば「まあ当然だろ」と相手にもされなかった。ちょっと腹が立ったので素直に褒めろと殴って大喧嘩になったのは言うまでも無い。
「おい」
「ん?」
机に向かって早数十分が経過した。特に滞り無く勉学に励んでいると、いつの間にか険しい表情を浮かべる花宮が隣に立って教科書を覗き込んでいた。
「何処が分かんねえんだ」
「え?」
「お前が教えろって言ったんだろうが…」
どうやら教えてくれる気になったらしく、一時の気まぐれが何処か行かない内にさっさと質問してしまおうと教科書をペラペラ捲る。
「ここの問題についてなんだけど、」
「あー引っ掛けか…」
「一応合ってたしなんとなーくは分かるんだけどしっかり明確にしときたいんだよね」
「お前結構頑固だもんな」
お前に言われたくない選手権に出たら1位を取るであろうその言動に内心腹が立ちながらも、ここで反論すればそのまま部屋に帰ってしまう事を恐れて言葉をぐっと飲みこんだ。花宮真の解説は正直教師よりも分かりやすく丁寧に教えてくれるので、こういう時だけは幼馴染で良かったと改めて痛感する。
なんだかんだ最終的には教えてくれるのだから、最初から素直に教えてくれても良いと思うのだ。素直では無い性格の彼は何かしら理由を付けないとやってくれないので、そんな日が訪れる事は無いだろうが。

「今度こそお前に勝つのだよ」
「負けるつもりは無いよ」
「うっは〜闘争心バチバチ燃えてんねお二人さん」
「ふん」
テスト当日であった。1時間目に割り振られた英語の最終確認として単語帳を見ている時に、出席番号順で右斜め前に割り振られている緑間真太郎に話しかけられた。ちなみに左隣の席は高尾である。
緑間真太郎は帝光中学校からの付き合いである。幼馴染がバスケ部であった為なんとなくマネージャーでもしてみようと思って入った所、選手として緑間が居たのだ。それから接点が出来、私の方が学力が高い事を知った彼は事あるごとに突っかかってくるようになった。競い合うというより彼が勝手に闘争心を燃やしているだけであり、こちらは別にいつも通りテストに挑むだけだ。
とは言うものの、幼馴染が教えてくれたので甚だ負けるつもりはないのだが。と思うのは私も負けず嫌いなのだろうと内心苦笑いを浮かべた。

今回も学年1位という成績を収める事の出来た私は、早速幼馴染に自慢しに行くと「当然だろ」という返事が来て前のテストの時から何も学習しないなこいつと後頭部を殴れば大喧嘩となった。