幼馴染の母も私の両親も、家を空けてる事が多い。
花宮真は片親なので、必然的に収入源は限られている。彼の母親は朝早くから夜遅くまで仕事に励んで彼を育てているので、幼い頃から必然的に自立を迫られていた。幼い頃は1人じゃ危ないとよく私の家に預けられて共に時間を過ごし、今では兄妹といった関係性が近いのではないだろうか。
私の両親も共働きであるが、決して収入が少ないという訳では無い。正直父親の収入だけでも裕福に暮らしていける程度には収入があるのだが、復帰した母が今の仕事が楽しいらしく、私達の生活面を見ても特に仕事を辞める理由は無いという事で今でも続けている。
いわゆる鍵っ子と呼ばれるのであろうか?小学校高学年になり、少しは危なっかしさも減った頃からこのような生活をしている。それも許されているのは隣の幼馴染という存在が大きいであろう。
女、しかもまだ小学校に通う子供1人置いて家を空けるのは好ましくないと仕事に復帰しようとする母に対して、父は猛反論した。「もっと大きくなってからの方が良い」やら「可愛い娘が誘拐されでもしたらどうする」やら「娘可愛すぎない?」やらそれはそれは蛇足を含みながら母を説得させようと試みたが、母はたった一言で父の反論を一蹴した。
「だって、真君が居るじゃない」
この一言である。母は少し抜けている部分があるので深く考えていなかったのだろうが、例え猫を被った性格面や自立している家事の面でも、しっかりしているように見える花宮真も当時まだ小学生なのだ。今思い返してみれば色々突っ込みたい部分はあるのだが、1人で生活してみたいと思う年頃であったが故にその時は反論せずに「真君が敵になったらどうする」だの「娘の可愛さに気づいた真君が手を出したらどうする」だのただただ喚き散らす父に「煩い」と投げかけ、撃沈させていた。まあ、父親の言う事の大半は娘可愛いという蛇足になるのだが、主張自体は間違ってはいないだろう。ただちょっと声が大きくて煩いだけで。
あれよあれよと母の仕事も決まり、いざ憧れの仮1人暮らしを始めたのだがそれも半日で終わった。ほぼ幼馴染が家に居たからだ。
手伝いをした事はあるものの、最初から最後まで通しの家事など1度もやった事の無い私は、全てが初めての経験であり何をどうすれば良いのか全く分からなかった。既に家電の扱い方や料理の作り方をある程度マスターし、自分よりかは遥かに自立していた幼馴染に泣きつけば面倒そうな表情を浮かべながらも色々教えて貰った。元々家にちょくちょく遊びに来ていたのも相まって家事を教えるという習慣が身に着いたのか、今では料理が当番制となり互いの家の台所を借りては食事を共にしている。面倒なので洗濯なども纏めて洗ってしまう事だってざらだ。ほぼ一緒に住んでるようなものである。
「今日何食べたい」
「ハンバーグ」
今日は彼が料理当番だ。遠慮無くリビングのソファを全て使い寝転んで寛ぐ。冷蔵庫の中を確認してる彼を尻目にスマホアプリでゲームを続け、ご飯が出来るのをぐーたら待つ事にした。
「お前ハンバーグ好きだな…」
「まこちゃんが作るの美味しいんだもん」
「…あっそ」
お、ちょっと照れてるな。いつもの雑な返事に少しだけ弾みを感じられ、そっぽを向いて決して此方に顔を向ける事のない彼の背中を眺める。
「スーパー行くぞ」
「んー」
「余った金で何か買えるかもな」
「プリン」
「ふはっ太るぞ」
「うるせえ今更だわ。それに?大事に取って置いたのに?まこちゃんに食べられたんだから絶対買ってよ」
「お前が俺の家に置いてるからだろうが…」
食べられないようにちゃんと大きな文字で「名前」と名前を書いてたのに、それを無視して食べられると思うか?普通は思わないだろう。花宮真は人の不幸は蜜の味といった嫌な性格をしているので、わざと食べたに違い無い。絶対に花宮真にプリンを買わせてやると意気込んで彼と共にスーパーまで足を運んだのだった。

スーパーからの帰宅後、食材を冷蔵庫を詰め込んでる最中に前回食べられた新しいプリンが入っていたのを確認して、矢張り彼は素直じゃないなと思うのであった。