いつの間にか私の部屋に上がり込んでベットの上で寛いでいた幼馴染みである花宮真は、帰宅した私を見るや否や顔を顰めてこう言い放った。
「お前、明日学校行くなよ」
「はい?」
過ごす時間が相当長いので彼の事はよく知っているつもりであったのだが、たまにこうやって意味の分からない事を言う。まさか未来予知をする能力でも手に入れたのだろうかと思ってしまう程唐突にそう言われたので、自分の頭の中は疑問符でいっぱいである。
意図が読めない為、説明を求めて聞き返しても「なんでもない」の一点張りで口を割ろうともしない為、尚更意味が分からない。気まぐれにも程がある。本来であれば料理当番は私である筈なのに、部屋着に着替え終わって台所に向かえば彼が既に立っており、自分が作ると言っても座って待ってろの一点張り。せめて何か手伝おうとしても決して私を台所に入れようとしない彼に、言われるがまま大人しく椅子に座って待っている事にした。
「もしかしてハンバーグ?」
「うどん」
「ふーん」
いつもは面倒だからとスーパーで買ってきた総菜なども共に並べるのだが、生憎家にそういったものなど無い。今日は素うどんだろうか、薬味あったかなとぼんやり考えながらテーブルに突っ伏した。
「…おい、起きろ」
「んー…?あれ、寝てた…?」
「アホ面晒してな」
いつの間にか眠っていたらしく、体を揺すられる感覚でぼんやり意識が浮上した。顰めっ面でこちらを見つめてくる彼にへらりと笑いかけながら出来上がったうどんを啜る。中には細切れされた白菜や人参などという野菜類が入っており、うどんだけではない食感が飽きさせる事は無い。いつもなら面倒だからと素うどんを置いて来るだろうに、珍しい事もあるものだと平らげた。

次の日。休めと予言紛いな事を言われて「はい休みます」とも言ってられないので普通に学校に出席した。1日休めばその分進んだ勉強についていけなくなる。ぶっちゃけ言ってしまえば休んだ所でノートは緑間や高尾に借りれるし、分からない箇所が出てきたら幼馴染みや緑間に聞けば問題無いという最強の布陣という立ち位置に居るのは理解しているが、矢張り自分でやれるのであればやるに越した事は無いだろう。教師の補足や小話と幼馴染みの教えが必ずしも一緒という訳でも無いし、内申点にも響いてくる。
「名前ーグラウンド行くよー!」
「先行っててー!」
「りょー!」
4限目は体育であった。朝からやけに体が重怠いと感じていたが、ただの寝不足だろうと自分の中で結論を出す。
昨夜、幼馴染みには「さっさと寝ろよ」とやけに口酸っぱく言われていたのだが、ついゲームに熱中しすぎて時計は0時を過ぎた時間を指していた。ゲームは程々にしないといけないなとその時は思うのだが、学校や部活で帰りが遅い上に勉強や家事なども行わないといけないので息抜きする時間がどうしても少なくなるのだ。故に睡眠時間を削ってしまうという悪循環であるが、かと言って部活を辞めるつもりは毛頭無い。
今日は絶対早く寝ると意気込んでは先に行った友人を追いかけるべく足を動かした。
男女に分かれて体育館とグラウンドを交互に使用する秀徳の授業は、今の時期は女子が体育館を使用する。種目はバスケであり、一応マネージャーをしている私は少し親近感が沸いていつもの授業より少し張り切っていた。元から体を動かすのは嫌いじゃないので休みの日は幼馴染みを無理矢理引っ張り出してバスケを教わる事もあり、現役の子には劣るが未経験者に比べたらセンスがある方だと思っている。
「名前ー!今日調子悪いね!」
「ごめーん!」
のだが、今日の私は全く使い物にならなかった。いつもであればシュートを打てば8割程入るのに、ミニゲームをしてシュートを打っても全く入らず、ドリブルはすぐにカットされてしまうのだ。
「走って!」
私からカットしたボールを投げられてしまった。マークしていた経験者の子が全力で走っているのを視界に捕らえていたが、走るのもやけに億劫になり遂には足が縺れてその場で倒れた。
「あ、れ…」
「名前ー!え、ちょ、名前!?」
幼馴染みの言いたい事がようやく分かった時には既に遅く、そのまま私は意識を失った。