部下が初めて外回り出た日、たまたま近くで起こった無差別爆破テロに巻き込まれた。あるビルの最上階にある一室に設置された爆弾が爆発し、割れたガラスがその下を歩いていた私達容赦無く頭上から降りかかる。このテロにより数十名の死傷者が出てしまい、かくいう私も私は頭に掠るも軽傷と診断された。
一緒に運ばれた部下は当たりどころが悪かったのか即死だったようで、救急車で搬送されてる時には既に心肺停止していたと告げられた。テロを起こした犯人は一時逃亡していたようだが、潜伏場所をすぐに特定されて逮捕されたと大々的にニュースに報道された。
割れたガラスが降ってきても危ないという事で、1日経った今も未だにテロのあった区間は閉鎖されているようだ。報道陣はなんとか目撃証言を取りたいのか色んな人に声を掛けているようで、その姿がテレビで生中継されているのを病院のベットの上でぼんやり眺めていた。
病室のドアをノックされて、誰かが入ってくる。どうやら両親だったようで、退院の手続きを済ませるから早く支度しろと心配そうな顔をしながらも私を急かす。出血の割には傷が浅い頭に包帯を巻けば処置は終わったのだが、頭部の怪我の為、念のため1日病院で検査入院していたのだ。担当医から問題無いと判断が下ったのか、もう私はここを出ないといけないようだ。
正直言って未だに頭の整理が着かないでいた。そりゃそうだ、初めて持った部下をちょっとした息抜きとして連れだし、挙句自分もろくに状況判断が出来てない中死なせてしまったのだ。私のせいだ。目を瞑るとどうしても隣に血まみれのまま地べたに倒れている部下を思い出してしまい、昨日からろくに寝ておらず、尚更思考回路も遅く動きも鈍くなる。重たい身体を引きずってなんとか病院から出て駐車場に移動すると、神妙な顔つきをした坂口さん、他の見知った顔がそこに居た。表情や黒一色の服装から見てただの見舞いじゃない事を思い知らされる。
「…名字、喪服持ってるか」
「ッ…ありません」
「そうか。まだ時間もあるし取ってこい」
「分かりました」
1人の先輩が私に近づいてそう告げる。ああ、何度夢だったら良いと思ったことか。他者から言われた一言で現実に戻され、ガンガン頭が痛くなる。グッと涙を堪え、両親が待っていてくれた車に乗り込んだ。

「あの子を返してよ!!!ねえ!!!」
「この度は、お悔やみ申し上げます」
「貴女が殺したようなものでしょう!?何であの子が…!」
葬式は親族の方、仕事の素性をあまり知られないよう一部の政府関係者で執り行われた。ひっそりとしていた空間は、1人の女性が私に近づいた事によって崩壊した。恐らく部下の母親だろう、事件の話を聞いていたのか、鬼の形相で私に罵倒を浴びせて来た。周りがその人を押さえて私の元から離れて行く。
「大丈夫ですか」
「…うん」
後ろから声を掛けてくれる坂口さんに返事をする。そりゃ親族の方からすれば何故自分の子供なんだと思うだろうし、それが正常な感情であろう。
「何で私じゃなかったんだろう」
ぽつりと呟いた言葉は、始まった葬式のざわめきで消えていった

時間は経つのが早いもので、棺桶に入れられた彼を火葬が終わるのを待っていた。時間を要する為に仕事の電話をしに行く人、子供達は暇なのか外に出ていき、人はばらけていた。待合室に案内されたのだが、私はぼんやり彼の火葬場で立って、ただじっと彼が出てくるのを待っていた。
「ここに居たんですか」
「…坂口さん、」
「探したんですよ」
「…ごめん」
背後から近づいて来たのはどうやら坂口さんだったようだ。彼の顔を合わす事無く視線を下に向け、彼が大げさにため息を吐いたと思いきや1日抜けた仕事の量はうんたらかんたらいつものように小言を言われる。それも反応する余裕の無い私は、ただ何も言わずに聞いているだけだった。
「はぁ、全く。」
「…」
「…名字さん」
「なあに」
「…貴女じゃなかったのは、きっと僕との約束があるからですね」
「え、」
「…僕との約束、もうお忘れですか?」
「なに、が」
「僕より長生きするんでしょう。先に死なれたら困りますよ」
「…ッ」
思わず顔を上げて彼の顔を見る。顔を歪ませて泣きそうな表情でこちらをじっと見る彼に、何で貴方がそんな顔をするのかと胸中が混乱で渦巻く中、伝染するようにじわじわと涙が浮かんできた。
嗚呼、あんな約束と言えるようなものでも無い戯言のような会話だったのに、覚えててくれた事が嬉しい。私にとっては特に意味を持たない会話でも、彼にとっては意味のある会話だったのだろうか、それとも、少し前の潜伏調査で思う事があったのか。どういう意味を持つか分からないが、少なくとも私にとっては後ろ向きの思考だったのにも関わらずその言葉で生きてもいいのかなと、少しだけ思えた。
事故が起きてから1度も涙を流さなかったのに、彼の前でわあわあ子供のように泣き叫んだ。そんな私を見てどういった対応をして良いか分からない坂口さんは、慌てふためきながら私の背中を撫でてくれ、その優しさにまた涙が溢れ出た。
「…落ち着きましたか?」
「ん、もー大丈夫。」
「貴女の大丈夫は大抵大丈夫じゃないんですよねぇ…特に仕事面」
「うっ、善処します」
「そうして下さい。」
「ありがと、安吾」
「全く、僕の同僚は手が掛かりますね」
「いつもお世話になります」
「もう少ししっかりなさい、名前さん」
「はーい…」
こうして安吾の約束を果たす為、もう一度生と向き合う事を決めたのだ。