探偵社に呼ばれたと云って出て行った安吾が病院に運ばれたと連絡が届いた。仕事が終わり次第急いで彼の元に向かえば、既に意識が戻っており命に別状は無いと医師から説明はされたが、近しい人間が怪我を負ったという事実は矢張り心臓に悪い。そのまま話を聞けばどうやら途中事故に遭ったらしく、彼は意識はあれどそれなりに怪我を負ったらしい。足早に彼の振り分けられた病室に向かってみれば、包帯グルグル巻きになりながらも難しい顔をした同僚がそこに居た。
入院している間は暇だろうとここ毎日彼の病室に足を運べば、第一声が「仕事はどうしたんですか?」である。仕事が一段落してから訪れていると説明するのに毎度疑わしいと云わんばかりの目でこちらを見つめてくるまでが一通りの流れと化していた。全く、どれ程信用が無いのやら。明日締切の分は明日やれば善いのだと云えば小言が増えた。解せぬ。
同僚が入院してから1週間が経過した今日、私は彼の病室に足を運んだ。相変わらず仕事はどうしたと云われたが終わったと適当流して話を反らす。
「結構元気そうで」
「そうですね」
「安吾は事故よりも過労死の方がイメージあるしね」
「何か云いました?」
「いえ何も」
意図的だろうか外された眼鏡の隔たりの無い鋭い目線が私を刺し、話でも逸らそうと適当な話題を振ってみる事にした。
「いきなり入った休暇だけど、何かするの?」
「貴女はこの姿を見て遊びに行けるとお思いですか?」
「気合いでなんとか」
「正気じゃないですね」
完治していない骨折している片足が治れば外に出る事も出来るかもしれないが、折れてても車椅子を駆使すれば然程問題では無いだろう。嗚呼、でも顔面骨折をしているのであれば少し危険なのかもしれない。顎を固定するように巻かれた包帯を見てぼんやりとした感想が出る。
「まあ、貴女は怪我してようが外に出たいと思えば出ますものね。」
「私はお淑やかなのでそんな事はしません」
「え?」
「え?」
「…前回の入院の事を忘れたとは云わせませんよ」
「…あの時は暇だったんでノーカンです」
「そもそも、入院は休暇じゃ無いんです。療養しなさい」
「入院してるにも関わらず仕事をやろうとする過去の安吾にも云ってあげて」
「誰も出来ない仕事だったので仕方ないでしょう」
ああ云えばこう云う。屁理屈の多いお互いの話は、突如見舞いに現れた人間によって中断された。
「やあ安吾!善い話を持ってきたよ!」
「あ、やべ」
両手に見舞いの品を掲げながら同僚に話しかけたのは、常に包帯を巻いている探偵社の太宰治であった。
「おや?私以外にもお見舞いの人居たnそこの麗しい人よ!どうか私と心中を…ん?」
太宰は私が居る事に気付いたのか、見舞いの品を投げてキメ顔のまま私の手を取る。その切り替えの速さが異常で思わず距離を取りたくなったが、それ以上に彼と離れたい理由があった。
「何処かでお会いした事がありませんか?麗しい人よ」
そう、それだ。以前、一度だけ太宰と接触してしまい異能が解けて姿を見られたのだ。同僚と共に居れば私が異能特務課の人間とバレてしまうのではないか?同僚は険しい表情で私達を見つめるだけで、話に入って助け船を出してくれる気配は無い。
「い、いやぁ…気のせいじゃないっすかねぇ…」
「否、私が女性の顔を忘れる訳がない!」
はちゃめちゃにめんどくせえ。この一言に尽きる。此方としてはそのまま忘れて欲しいものであるが、相手にとっては思い出そうと逆に奮起になっていた。どうにかならないものだろうか、握られた手をそのままにチラチラ同僚に視線で助けを求めれば、仕方ないと云う感じで大きな溜息を零し、やっと口を開いてくれた。
「太宰君、ご用件は?」
「一寸待って安吾、今思い出すのに必死だから」
うんうん悩みに悩む太宰は深刻な表情で私を見てはあーでもないこーでもないとブツブツ独り言を話す。こっちとしては思い出された後の云い訳など考え無いといけないし、切れる太宰の頭脳を考えればバレない保証は無い。内心冷や汗ものである。手っ取り早く話を逸らすのも失敗したが、もう1度私から云ってみようと声を掛けた。
「あ、あのぉ、坂口さんにご用があったのでは…」
「あ、猫の子?」
「人が必死こいて話逸らしたのに思い出すなよ」
最終的に気を逸らす作戦は失敗に終わった。この後太宰は安吾と取引をして帰って行ったらしい。私は話をしてる間に逃げたので何の取引をしたかはよく分からないが、少し曇った表情をしてる同僚に何かあったのだろうかと懸念しながら彼の見舞いの品を盗み食いした。

この後探偵社の女医に綺麗さっぱり治して貰った同僚は、すぐさま組合の調査に入るという社畜っぷりを見て引いた。