デスクに置いてある一応綺麗にファイリングしているファイルから、はみ出た紙があったので見てみれば書類が出てきた。その書類はなんと今日締切のものであり、逆に気づいた事が奇跡だとヒイヒイ云いながら大急ぎでこなしている時に放送が掛かった。放送自体は別に珍しい事は無い、普段の私であれば普通に聞き流していたであろうそれを急いでる今わざわざ手を止めてまで聞いたのは、私の名前が呼ばれたからであった。放送の声や内容からして長官が私に用があるらしく周りから「何かやらかしたのか」と騒つかれたが、何かした前提で話を進めないで欲しい。特にジト目でこちらに近づいて来る同僚。確かに現在締切間近の仕事を終わらそうと必死になっているのは事実であるが、まだ昼だし猶予はある。このまま進めれば余裕で終わる筈だ。
全く失礼なものだ、私程出来る人間など居ないのに。そう零すように呟けばいち早く反応した同僚が「冗談も程々になさい」と云われた。解せぬ。

「失礼します。名字です」
「来たか名前。一寸話があってなぁ」
「種田長官、ご用件とは?」
部屋に通して貰えば長官はニヤリと何か企みでもあるような笑みを零しながら、私を見据えていた。
何だ、本当に何かやらかしただろうか?善意でカツラを渡した事を未だに根に持って…?否、あれはもう赦して貰った筈だ。そもそも長官は普通に爆笑していたし、怒っていたのは同僚だ。では何が目的だろうか?
「もう善い年やし、見合いとかしたらどうなん?」
「あ、面倒な気配を察知」
「そう邪険にせぇな。善い話持ってきてんねん」
クソ面倒くさい気配を察知したので足早にこの場から去って仕事の続きをしようと方向転換したのは善いが、いつの間にか背後に迫っていた長官に肩を掴まれてしまい話は続行する事になった。
「一寸繋がりのある医者の息子さんでな、未だ独身でお付き合いしてる人は居らんらしい。」
「へー」
「年も近いし話も合うと思ってんけど」
「ふーん」
「ちなみに、結構イケメンやで」
「詳しく聞かせて貰いましょう」
顔が善いという言葉に反応してしまった私は、話だけでもしてみたらどうだと長官の計らいにまんまと乗せられた上、もう仕組んでいたのか日程と場所を伝えられ、晴れて見合いをする事になった。
席に戻った途端に何をやらかしたのか早く云えと首根っこ掴まれて揺さぶられた私は、私の息の根を止めようとする元凶の同僚に見合いの話だと説明した。
「は?」
「え?」
「…相手に失礼では?」
「その発言、私に失礼では?」
同僚は驚愕した顔を見せるもすぐに冷静になり、相手が気の毒だとか何だと云う。
「私に嫁に行って欲しくないみたいですね?ん?ん?」
「…そんな訳無いでしょう。で、仕事は終わったんですか」
「あ、やべ」
イケメンに胸を躍らせる暇も無く、私は仕事に取り組んだ。

見合い当日。
和風の旅館の一室でなんか凄い料理が並んでる。うん。なんか凄い。
私の隣には長官が座っており、仲が善いのか相手側と和やかに会話を続けている。対して私は場違いなのではと内心ドッキドキで冷や汗が流れる。
「さて、後は若い者2人で」
待って長官ー!待ってー!私を置いて行かないで!そんな私の心情は届かず、部屋に2人きりとなった。
「え、っとぉ…ご趣味は?」
何か話さねばと相手に尋ね、私は聞き役に徹した。お喋りらしい相手はペラペラ自分の自慢話で1人盛り上がり、君の見た目はまあ及第点やら大変失礼な事を云ってくるわ女性の理想像やら色々こちらに押し付けてきた。
確かに顔は善いがそれだけである。私には普通に合わない相手だと察し、既に帰りたい気持ちで一杯だった。これなら仕事をしている方がマシだ。
「俺の嫁になるなら専業主婦になって貰うよ」
「はあ」
「女は家事しかやる事無いから楽出来て羨ましいよ」
「…」
こいつまじ殴ってやろうか。

結局、見合いは破談になった。私が長官に泣きついて絶対無理だとゴリ押ししてなんとかして貰い、彼との縁も恐らく完全に切れた。聞いてるだけであれだけ苛つかせる相手の対応は久しぶりで、精神的負荷は未だに残ったまま仕事とか大変憂鬱である。
「はぁ…」
「何ですかその辛気臭い顔。」
「何でもねーです」
グッタリしてる所に同僚が来た。今は彼の相手をする程の余裕は無いので適当にあしらう。
「…見合いはどうなったんです」
「あー…顔だけは善かったと云っておこう」
「そうですか」
これに懲りたら見合いなど辞めなさいと云って去る同僚の後ろ姿が、やけに気分が善さそうであった。
あいつ、私の縁談失敗した事喜んでるな。陰湿野郎め。その瞬間クルリとこちらを見て鋭い視線を飛ばして来た。やべー仕事しよ。