出張から帰ってきて早数日が経過した。
同僚の仕事を勝手に捌いた事により、彼の負担が少し減ったのかゆとりが出来たようで少しだけ顔色が善くなっていた。かえって私の方は少し忙しくなっているが、まあこなせない量でも無いし外回りを減らしてのんびりマイペースに進めていけば然程問題は無い。
「はー外行きたい」
「駄目です」
「うお、安吾いつの間に気配の消し方取得したの?」
「貴女がボーッと外見てるからですよ。ほら、さっさと仕事なさい」
そう云って私に持ってきた書類を受け取り、項垂れる。
「こら、云った矢先にだれるとは何事ですか」
同僚が手に持っていたバインダーで頭を叩かれた。痛い。
昼になった。食堂でたまたま合った同僚の側近2人と共にご飯をつつく事になり、談笑しながらのんびりと会話を続けていれば脈絡も無く村社が同僚の事を話し始めた。
「それにしても安吾先輩、一寸元気になったっスね」
「代わりに小言増えたけどね」
「それは…まあ…」
「何?何なの?2人共酷くない?私何もしてないよ?」
こちらは何もしてない潔白な筈なのに、2人は私をじと目で見つめてくるではないか。何だ、何がいけないんだ?2人して溜息を吐きながら私の言葉に反応する事無く食事を再開し始めた。矢張り同じ人間を守る者は似るのだろうか、寡黙で表情を変えない男と、表情豊かで思った事がポロッと出る女。中身が正反対だと思っていた2人は見事に行動がシンクロしている。
「名前先輩帰ってきてからイキイキしてるよな」
「あー確かに、ちょっと楽しそうっス」
「何て?」
毎度毎度眉間に皺を寄せながら私に向かって小言を吐き続け、終わったかと思いきや溜息を吐いて去って行くあの同僚が、イキイキ楽しそうだと?云ってる意味が分からない為問い詰めれば、何かと行動している同僚は2人の目から見れば「少し気が抜けてる」「楽しそう」と云う。私からしたらただ小言を云う姑だし逆にノンブレスで言葉を放つ方が疲れるのではないかと思うのだが、どうやらそうでも無いらしい。
「2人の目は節穴だと云う事がよーく分かったよ」
「名前先輩は安吾先輩の事見てないから知らないんスよ!」
「安吾が私の前で楽しそうと云うなら小言を云う事に喜びを感じるただの陰湿野郎じゃないか」
「僕が何ですって?」
「いやー今日はお日柄も善くっ!素晴らしいお昼ですね!」
隣からニュッと現れた同僚に冷や汗が大量に流れ出る。とりあえず話を逸らそうとそっぽを向きながら適当な話題をこじつけてみた。
「…雨ですけど」
「嘘やん」
天は私を見放した。仕事をしていた先程までは晴れ晴れとした空をしていたのに、今ではどんより曇り空から大量の雫が降っていた。まるで私の流れる冷や汗を表現しているようだ。
「で、誰が陰湿野郎ですって?」
「さあ…?私よく分からない…」
「へえ?」
「まじさーせんした」
じいいいっと見つめてくる同僚の視線に根負けして素直に謝った。そもそも、側近2人が共にご飯を食べてる時点で気づくべきであった。安吾を守るという任務がある以上、基本的にどちらか1人は護衛対象の周辺に居るのだ。今回も例外ではないようで3人共に昼休憩に入っていたという訳である。
「ほら、楽しそう」
「何がですか」
「先輩、名前先輩と一緒に居るの楽しそうだって話してたんス」
「は?名前さんに手を焼かされまくるこの僕が?貴女の目は節穴ですか?」
「んなっ!節穴じゃないっスよ!ね、青木!」
物凄く失礼な事を云われた気がするが、安吾の云う事には同意だ。この陰湿眼鏡の何処が楽しそうにしてると云うんだ。
ぐるんっ同僚の顔がこちらを見てくる。彼の異能は現在思考している心情を読むものでは無いのに、何故分かるのだろうか?怖っほんと怖っ目を逸らして青木の方を見てみれば、彼も彼で頷いている。
「2人の目は節穴ですか?」
「2度も云われた」
「2人して同じ事云わないで欲しいっス」
「名前さん真似しないで下さい」
「安吾が真似したんでしょうが」
2人で小さな口喧嘩をしていれば微笑ましく私達を眺めてくる側近の2人を見て、安吾はひとつ咳払いをして溜息を零した。
「はぁ、無賃残業をさせられてる気分だ…」
「こっちもだわ」
「え?」
「え?」
きょとんとした表情の同僚と顔を見合わせていれば、側近の2人から「似た者同士」だと云われるわ「こんなズボラ人間と一緒にしないで下さい」とけなされるわ仕事をしていないのに疲れる昼であった。
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