仕事の合間に買いに行ったコンビニ弁当の入った袋を手に引っさげ、近場の公園へ足を運ぶ。
時たまこうやって1人でのんびりご飯を食べる。言葉が飛び交い基本的に騒がしい食堂ではなく、太陽光が一帯を照らし緑豊かで自然のざわめきや音だけを聞いて心安らかに有意義とした昼を満喫したくなるのだ。
「は〜〜〜…素晴らしい…」
車のエンジン音や子供の騒ぐ声、そういったのも引っくるめて公園は善い、基本的に忙しない職場とは大違いだ。弁当を箸で突きながら椅子で寛いでいた時、3つの毛色を持つ猫が私の足元を通った。大伯父に似てるようで少し違う猫に解した切り身を分け与え、そういえば大伯父は凄い人だったなーといった感想を持つ。
そんな大伯父と今度ご飯に行こうと約束していたが、一向に連絡が来る事は無かった。現在飼い猫として一般人に飼われてると云っていたし、目を盗んで連絡を取るのは難しいのだろうと結論を出した。連絡先を教えているし、私はただ彼の連絡を待とうと心に決めた昼下がり。
それにしても、
「善いなぁ…」
「何がですか?」
未だに昼休憩の気怠さから抜けきってないまま仕事を始めた私は、デスクに両肘をついて大伯父の事を頭に巡らしていた。それを見かねたのか同僚が私の隣に立っており、ぽろっと出ていた独り言に反応を示した。
「わ、吃驚した」
「仕事中ですよ。気を抜かない」
「は〜〜〜い…」
「で、何が善いんですか?」
ただ注意をしにきただけだと思っていたのだが、予想とは裏腹に会話を広げられ同僚の顔を見つめた。同僚はこちらを見る事無くバインダーに挟んでる書類にペンを走らせており、いかにも忙しそうなのに珍しい事もあるもんだと私も言葉を連ねた。
「今大伯父さん飼い猫らしいんだけどさ」
「はい?」
「善いな〜って」
「待って下さい、いま何と仰いました?」
「ん?大伯父さん飼い猫ってとこ?」
「そこです」
同僚は驚愕の表情を崩さず私をじっと見つめ、目だけで説明を促してきた。と云われても言葉通りなのだが、一般の人に猫として飼われているという事を伝えれば彼は頭を抱えていた。
なんか凄い働きをした大伯父が、今では飼い猫という事実にどう消化すれば善いのか分からないのだろう。同僚の反応に笑いながら私はデスクの上でぐでんと上半身を預けて彼を見ていれば、大きな溜息を零してズレた眼鏡を指で押し上げた。
「はぁぁぁ…」
「でっかい溜息」
「で、そんな夏目先生を羨ましいと?」
そりゃそうだろう。異能をずっと使わないといけないデメリットはあるが、働かずとも衣食住を確保出来るのだ。ゴロゴロ寝ていてもご飯を与えて貰え雨や風を凌ぐ事を考えずに済み、時たま人と触れ合ってコミュニケーションを取る。勿論光熱費や家賃、水道代諸々を払わなくても善い。素敵な事ではないか。
「貴女ただぐーたらしたいだけでしょう」
「よく分かったな」
「分かりますよそりゃ」
働かずとも生きていける暮らしというのはとても楽だ、人間の姿ではこんな使い古されたボロ雑巾のような生活であるのに対して破格の対応だろう。ただ娯楽が無い事が不便だろうが、まあそれは仕方無い。
「は〜働かずに生きたい」
「そんな事に思いを馳せないで仕事して下さい」
「安吾よ、私を」
「厭ですからね」
最初から猫の姿で出会った人間であれば問題無いのだろうが、矢張り知人は無理か。時間を無駄にしたと云わんばかりにセカセカと自分の持ち場に戻る同僚の背中を見送り、私は大伯父の暮らしはどんな感じなのか思考を巡らせるのであった。
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