私の職場は俗にいうブラック企業たるものだろう。私は異能特務課と言えど平々凡々。特に出世もしていない平社員なので重要な仕事をそこまで任せられず、特務課の中ではそんなに厳しくはない。自分で言ってて悲しい。
たまに会社と共に一夜を過ごす程度だが、スピード出世した私の同僚は残業続きで数日家で眠っていない事も多々あるらしい。「わー大変だー」棒読みで言った所、まあ貴方には向いていないでしょうね。ずぼらですし。と少し冷ややかな目をされた。この男は一言多く言わないと気が済まないのか、と思いながら窓の外を見る。

雲一つ無い青空が広がっていた。

今から数年前、今日と同じく雲一つの無い青空の日に私は会社から飛び出した。勿論昼休みにだ。勤務時間に飛び出すのはいささか問題があるし何より勤務時間に抜けだそうものなら同僚の説教が余計に長くなるのは分かりきっていた。
この数日前に、私は任務に失敗した。
偵察の最中、異能力と使ったにも関わらず流れ弾に当たり重傷では無いものの足に怪我を負った。ああ、不運だと嘆きながら病院に運ばれ数日間少しの検査を受け、弾も抜けてるし特に神経を傷付けていないようで早い段階で問題無しと医者に言われたので数日で退院した。見事仕事に復帰したのは良いのだが、任務失敗した挙句やはり数日ではあるが入院してしまった。
これ以上ヘマをするわけにもいかない。何より休んでいた分の仕事が溜まっているのだ。ウジウジしていられないと自分に喝を入れ、ドアを開け挨拶をする。怪我した足を少し引きずりながら自分の席に座る。
「おはようございます。足は大丈夫ですか?」
「完治ではないけど仕事復帰のお許しは出たって所かな」
「そうですか。言いたい事は山々あるのですが、とりあえず先日の偵察の件について上司に報告した後ですかねぇ。」
と、席が遠いにも関わらずわざわざ足を運んで来た同僚に声を掛けられた。遠回しに報告後次は僕が物申す番だと、私の行動を決められてる感が否めないが、まずは報告書作りから始めなければいけない。適当に返事を返してからパソコンを立ち上げた。

報告書を作り、上司に報告し終わった時にはほとんどが昼休憩に入るようで財布を持っている人や、コンビニの袋を持って食堂に行こうとしてるであろう人とすれ違った。このまま戻るとお小言乱舞なんだろうな、と億劫になる。そして1つの案を思いついた。そうだ、猫になって逃げよう。怪我した足が痛むが、まあ大丈夫だろうと呑気考えビルの外に出てから人気の無い場所で異能力を使う。異能を使ってもバレなきゃ大丈夫だ、今日は黒猫でいこう。
ある程度職場から離れたらきっとバレないだろうと思い、猫の姿のまま特に行く当ても無く歩く。赤煉瓦で作られた壁の上を歩いていると、白髪の和服を着ている男性と目が合った。
ふと足を止め、その男性を見つめ合う。異能力者とバレたのか冷や冷やしていると、とても真剣な眼差しでこちらを見つつ、懐からにぼしを取り出しこちらに差し出してきた。成程、動物好きか。あまりに目力が強すぎるから異能力がバレたのかと思った。
せっかくだから頂こうと差し出されたにぼしの匂いを嗅ぎ、食べると男性が私を抱き上げた。まあにぼしを頂いたしお礼にされるがままにしていると男性は移動を開始した。会社からあまり離れたら迷子になる、これはまずいと考え身を捩るがさり気無く肉球を触られるだけでびくともしない。
そうこうしている内に建物内に入った。どうやらここは武装探偵社の社長室のようである。ソファに降ろされ男性は何かを探し始め、こちらを向いた。飼い猫にはならないぞ、と意思表示に警戒をするが、手に持っていたものは救急箱であった。
男性は私の足を手当してくれたのだ。とても優しい素晴らしいお方だ。感謝の意を込めてにゃあ、と鳴くと、少し微笑みながら私の頭を撫でてくれた。恐らく時間も時間だしそろそろ戻ろうと思い、そのまま部屋を出る。今日のお昼ご飯はにぼし1つであったが、良い出会いだったなと思いだし会社に戻る。
この後無事同僚に見つかった。何処をほっつき歩いていたんですかと問われ素直に答えると長々と説教された。


「名前さん?」
ふと名前を呼ばれそちらを向く。どうやら意識が飛んでいたらしい。
さて、仕事の続きをやりますか。
ガミガミ隣で吠える安吾の声をBGMにし、軽く伸びをした後パソコンに向き合った。