ある日の昼休み
私はお昼ご飯を買いにコンビニまで足を運び、その帰り道に偶然見かけてしまったのだ。黒い外套を纏い、全体的に黒いその男ーー芥川龍之介は、指名手配犯として追われる身にも関わらず堂々と歩いていた。
何か行動を起こすのだろうか、と発想に至るのも致し方ないだろう。今までの彼の行動には目に余るものがあった。勤務時間外だが偵察をするのも私の仕事だと考え、私は彼の後を追う事にした。
勿論異能力を使って追跡する。特務課は表向きには無いものとされているが相手はポートマフィア、若しかしたら社員の顔と名前を知られている可能性があるのだ。気を引き締めて私は一定の距離を保ちながら芥川を追いかけた。

人間の姿だとしても結構な距離を歩いたであろう、特に行動を起こす事は無かった。もう昼休みも終わる頃だ。ここからでは徒歩で帰っても遅刻するだろうな、などと考えてふと芥川の方を見たらバチリと目が合った。
追跡しているのがバレたのだろうか、まずいとヒヤヒヤしている間にも睨み合いが続く。それを破ったのは意外にも芥川だった。
「先程から如何様だ。」
ドキリ、と心臓が跳ねる。目線は私に注がれているので勿論私に向けての言葉だ。
異能力で攻撃されるのだろうか、使われたらおしまいだ。私に逃げる技術は無い。ああ、これならもう少し同僚の小言を面倒がらずに聞いておけばよかった。
こつり、と芥川が私の方に足を動かし、私の前まで来た。
短い人生だったが楽しかったな、などと思いながら目を瞑ると、ふと頭の上に何かが乗った。
「僕は何も持ってはおらぬ」
乗っているのは芥川の手だろう。やんわりと頭を撫でられ、身を任せる。どうやら餌を集る猫に見られているようで、命拾いした、とほっと息をついた。
芥川の手は頭から顎の下に移動し、そこを撫でられ、喉がゴロゴロと鳴る。撫でられながらも芥川の顔を見るといつもの無表情より少し柔らかい雰囲気を出していた。

満足したのか芥川は私から離れて何処かに歩き出した。これ以上深追いするのも難しいだろうと思い猫の姿で昼食を買ったコンビニへと向かう。猫の姿になれば荷物はその場に置いていかなければならないのだ、とても不便である。
路地裏に置いて来たものだから衛生面ではあまり良くないかもしれないな、などと考えながら覗き込むと、そこに私の昼食は無かった。辛うじて財布は見つかった。昼食は多分猫やカラス辺りに横取りされたのだろう。
異能力を解除しすぐに食べれるであろう菓子パンを購入しとぼとぼと会社まで帰った。自分の席に着いた頃には既に午後の勤務が始まっていた。
「何処に行ってたんです?既に昼休みは終わりましたが」
「芥川と遭遇したから追跡してたんですよー。お陰でお昼ご飯にありつけてない・・・」
「・・・何故報告しなかったんです。貴女の携帯はお飾りですか?」
「ごめんて」
菓子パンの袋を開け、片手に持ちながら報告書を作り上げる。その間にも同僚からの説教が始まった。ああ、耳が痛いが、帰ってきたんだなと実感した。
報告書に猫は嫌いではないと記載しておいた。