今日の外回りは特に異常や抗争は無かった為に滞りなく終わり、政府機関のビルに戻ってから異能力を解いた。異常が無い事は善い事であるが、報告書に書く事が無くて頭を悩ます事になり少し億劫になる気持ちを躰をぐっと伸ばして払拭させる。
廊下を歩いている時から、否異能力を解いてからやけに人の視線が痛い。ここに居る人達は猫になる異能を所持している事を知っている筈なのだが、異能解除時を目撃した人ならまだしも通りがかる人々が私を1度は目視していく。何だ?遂にモテ期でも来たか?とは云っても別に嬉しくは無いのだが。視界にチラチラ入る煩わしい横髪を耳に掛けようとすれば、私の手も髪も空を切った。
「え、え、は?え…ぎぇああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
そこにある筈の耳が無かった。
「ああああああああんごおおおおおおおおお!!!!!ああああああ!!!!!」
「いつも以上に騒いでどうしたんでぐえっ」
「どうしよおおおおおおおおおおおお」
「あああああ先輩!!!先輩死んじゃうから離して!!!」
私の方を見向きもせずにパソコンに齧り付く同僚の首根っこを掴んで左右に揺らせば、蛙が潰れたような声を出した。側近である村社が間に入って私を落ち着かせようとしてくるのだが、私はそれどころでは無かったので村社の腕にしがみついてぴーぴー泣きべそを掻く。咳き込んでいた同僚は私に怒りの表情を浮かべているが、やがてそれは驚愕の表情に変わった。
「耳が無いぃぃ…みみが…ない…」
「耳が無ければどうやって人の言葉を聞けるんです」
「あれ…あれ、本当だ。聞こえる。でも耳無いぞ?あれ?」
「ありますよ。ほら、頭の所」
「は?頭?…は?」
何云ってるんだこの同僚、仕事のやりすぎで遂に頭でも可笑しくなったのか?疑問が浮かび上がりながら自分の手で自身の頭を触れば、そこにはある筈のないふにゃりとした変な触り心地の突出したものが2つあった。
「は???」
「猫の耳があります」
「うっそだろおい」
確かに感覚はある。抓れば痛いし突出したものを触っていればザワリとした雑音が間近で聞こえ、音を拾う機能としてちゃんと役割はこなしていた。
「心当たりは?」
「全く無い」
外回りに行く前は至って普通の人の姿をしていた筈だ。通りがかった人が私を見てきた事も無かったし指摘もされなかった。外回りの時も異能力者に出会う事も無く終わっているし、私の体感的には違和感も無く異能力を解除出来た。特にこれと云った原因は思い当たらず、考えれば考える程困惑する一方だった。
「異能力が一時的に制御出来なくなっているのかもしれません。異変があればただちに伝えて下さい」
「あ、はい」
こういう時冷静な人間が居るのは心強い。同僚の切り替えの早さに感服しながら、私はスーツのジャケットを一旦脱ぎ、頭から被って特に明記する事のない報告書に頭を悩ます事となった。
何という事であろう。世間一般で猫耳萌えだとか何とか云うのは知っているし、実際自分もそういった写真などを見かければ可愛らしいなという感情を胸に抱いた事だってある。ただそれは可愛らしい子がやるから善いのであって、決して平凡な女がそういったものに手を出して善いものではないだろう。否、私に関しては不可抗力なのであるが。
「はぁぁ…」
「何て格好してるんですか」
周囲からすれば可笑しな姿で仕事に打ち込む私を見かねた同僚が、私の所に近づいて来た。
「見られたくないんですよ…分かるかこの気持ち…」
「いえ全く」
「ちくしょー」
少し雰囲気が愉しそうな気配からしてからかいに来たのだろう、全く陰湿野郎だ。同じ現象になってみろ、否全く萌えないから矢張りやめて欲しい。
ギロリ。同僚の目つきが鋭くなった。ほんっと、ほんっとどうなってんだ。私が顔に出やすいのだろうか?頬をモニモニ揉んで百面相して誤魔化す。
「体調に変化はありませんか?」
「えー心配してくれてるの?やっさしー」
「そうですか絶好調ですか。所で僕の仕事がだいぶ残ってますので手伝って頂きたいんですがねぇ」
「猫の手も借りたいってか。うるせーよ」
「僕何も云ってませんけど、少し面白いですね」
「ならそれ相応の顔してよ真顔じゃない」
莫迦みたいな会話をしながら自分の体調について考えてみた。人の姿からの変化としては少し鼻が利くようになったとか、動く物に目がいってしまうとかそういった所だろうか。後は…
「んー…耳が聞こえづらい」
「こんなの被ってるからですよ。」
「やーめーろー」
頭から被ってたスーツのジャケットを奪って安吾は自分の腕に掛ける。それを奪おうと手を伸ばすのだが、それを逆手に取って伸びきった顎の下を撫でられる。
「んー」
「猫の性質の方が強いですかね」
「遊ぶのやめてくれない?」
こいつ、完全に私で遊んでやがる。思わずされるがままになったのだが我に返って手をバシッと叩き落として仕事に専念しようとパソコンに向き合えば、耳を摘ままれる感覚。
恐らく同僚が私の耳で遊んでいるのだろう。髪を退かして生え際を確認されたり、耳を触ってみたり。その度に耳がピクピク動いて同僚の手を撥ね除けようと動作をするのだが、それでもしつこく触ってくる
「何さ」
「どうなってるのか仕組みが気になりまして」
「面白そうな気配を察知」
「村社は帰ってどうぞ」
何処から入手したか分からない猫じゃらしを片手にやってきた村社を追い払おうとするのだが、それも失敗に終わりちゃっかり安吾と村社に猫じゃらしで遊ばれてしまったのだった。
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