「名前さん、今日一杯どうですか?」
昼休憩中、安吾がわざわざ私の席まで来て呑みに誘ってきた。
誘い方がもうおっさんだなー「今失礼な事考えました?」この人ほんとエスパーかな?冷や汗をかきながら了承の返事をする。
安吾と呑みに行くの何ヶ月ぶりだろうか、コンビニ弁当をつつきながら前に呑んだ記憶を引きずり出す。久しぶりに仕事後が楽しみだな、上がる口角を隠す為にご飯を口に含み、咀嚼して飲み込んだ。

新人時代からお世話になっている居酒屋に来た。お酒も美味しけりゃつまみも美味しいしそこらの居酒屋よりかは安い。新人時代の私達はとてもいい所を見つけた、グッジョブ。
「ちょっと聞いてるんですか!」
「うんうん聞いてるよ」
酒が入ってるコップをテーブルにダンッ!と叩き付ける私の隣に座るのは安吾。しかし、目が伏せがち、顔が真っ赤で酔っ払いのそれだ。仕事が激務で愚痴を肴にした久しぶりの酒。一方的にノンブレスで喋ると口が渇き、一気に酒を煽る。そんな感じで呑む安吾はペースが速くすぐに酔い潰れた。
そのまま絡み酒。確かにお互いの共通の話題といえば仕事だし、私はともかく安吾は家で寝る事が稀な程の激務、愚痴も溜まるだろう、それを聞き役になるのは必然的に分かっていたし仕事に追われる安吾のガス抜きをさせないとだなーとふつふつ思ってはいた。
「ほんともう疲れましたお仕事辛い・・・」
「お仕事大変だね安吾」
「僕もなりたくて上に立ってるんじゃないんですよぉ」
呂律が回らなくなってきた安吾がテーブルに突っ伏した。こりゃ寝るだろうなぁと遠い目をする。
今までの経験からしてテーブルに突っ伏す安吾は90%の確率で寝るのだ。残りは寝てるかと思い起き上げようとしたら思い切り頭を振り上げてくる。初見は舌を噛んだ苦い思い出がある。あれは死ぬかと思った突っ伏したままお仕事嫌だと言う安吾を放置すると、やがてすやすやと寝息が聞こえてきた。今回は頭を振り上げてこないだろうな、と念入りに安吾の名前を呼び、軽く肩を揺さぶる。…よし、完璧寝たようだ。
「おじちゃん、勘定お願いしまーす!」
「あいよ!」
鉢巻きをして爽やかな笑みを向けるおじちゃんに代金を支払い、隣で寝てる酔っ払いをどうにかして背中に負ぶさる。武闘よりも頭脳派で周りより筋力が無い安吾だが男は男。寝てるのも相まってずっしり重たい彼を起こさないように歩き出した。

朝。
自室付近が騒がしい、今日は休みだし寝かせてくれ。バタバタドタンと何か落ちたような慌ててるような音に反応して夢の世界から引きずり出されたが、身体はまだ寝ていた。そのまま眠気に身を委ねよう―――と思い夢の中に入ろうと思ったのも束の間、バタンッ!と近場でドアが開くような音で目を少し開けた。
「名前さん!?!?ちょ、え!?」
「何?」
「え、ここ何処です・・・?」
「何処って、私の家だけど」
「〜〜〜〜!?!?」
まだ完全に覚醒してないまま身体をのっそり起き上がらせる。
そう、酔い潰れた安吾を負ぶさって歩くのは結構大変だったのだ。安吾が借りているホテルより自分の家が近いので安吾を自室のベットに転がし、私はリビングにあるソファに丸まって寝た。少し、いやだいぶ身体は痛い。
ちらりと安吾を見ると、耳や首が真っ赤になっていた。。そういや安吾は照れる時は顔ではなく耳や首に出るよなーと客観的に見ながらくわっと欠伸を漏らす。
「昨日、僕が酔っ払ってここまで運ばれたという事ですか?」
「そだね」
「女性が易々と部屋に入れるものじゃありません!」
少し経って冷静になったのか現状を把握したようだ。朝一始まった小言を受け流し「朝ご飯食べてく?もう昼近いけど」話を逸らそうと問う。
「今はそんな話してるのではありません!」
どうやら話は逸れなかったようだ。これは長期戦になりそうか?と頭で考えているとふと小言が止まったので安吾の顔を見る。
「・・・とは言え酔いつぶれた僕にも非があります。すいません。助かりました」
「いーえ」
朝ご飯、手伝いますと律儀に手伝おうとしてくれる彼にお言葉に甘えつつ何が食べたい?と問えば、
「シジミの味噌汁がいいです」
どうやら二日酔いが酷いようだ。よくそんな身体で小言言えるの凄いなーと関心しながら朝ご飯を作り始めた