今日も偵察に向かう。
前回は太宰治に猫の姿で抱き上げられた挙句、無条件で人間失格が発動してしまった。そう、あの武装探偵社の社員の前で異能力がバレてしまったのだ。私がどういった仕事をしているのか、はたまた猫の姿が楽しいだろうから使ったのか、私の内情を相手は知る由も無いが武装探偵社には頭の切れる者が居るらしい。太宰もその1人だと以前安吾から聞いた。はぁこれからの探索が少し億劫だ。
まあバレてしまったものは仕方ない、私が異能特務課の人物と知ってたとしてもわざわざ太宰は猫1匹1匹触るような真似はしないだろう。安吾と知り合いそうだしもし異能特務課と話がしたいのであればそっちにいくだろう。多分。
職場に戻り報告書を作成したのはいいが、どういうルートで話が漏れたのやら安吾にバレて貴女には危機感が足りません云々説教された。解せぬ。
今回はそんなヘマはしないぞ!というより前回が特殊なだけだが。まあ黒猫じゃなければ迷信だとか言われないね!!!
狭い路地に入り、異能力を使い猫の姿になる。
猫の身軽さを利用し、細道を使い人の少ない倉庫街に出た
今日もまあ平和だろうか、とふと倉庫街からブツブツと話し声が聞こえ、そちらに足を向ける
何かの密会だろうか。そう思い少し駆け足で歩く
ここら辺からだと聞こえやすい、とそこで寛いでる体制を取る。これで完璧リラックスしてる猫の姿にしか見えないだろう。
ふと遠くから聞こえてくる怒号、悲鳴、叫び声
危機に気づいた時には遅かった。
閃光弾を落としたかのような、雷が落とされたかのような稲光、けたたましい破裂音、熱が身体に襲う
熱風に煽られ身体が飛び、宙を舞う
あ、これ爆破に巻き込まれたな
客観的にそう思いながら危ない!!!という何処からか声が聞こえると共に意識は深い闇へと落ちた


「ーーー」
長い夢を見ていた気がする
見慣れない天井、動かそうとすると悲鳴を上げる身体
あ、これ夢じゃないな。視覚、嗅覚、聴覚で情報を得る
真っ白なカーテン、消毒液のような独特な臭い、一定のリズムで刻む電子音
先程から頭を揺らす隈の酷い同僚、握られた左手の感覚。
ここは恐らく病院で、その見舞いに来た安吾という所だろうか
「ーーぁ」
声を出そうとするが水分不足だろうか掠れて声が出ない。
ガクリと頭を先程よりも大きく波打った同僚には目を覚ますのには衝撃だったのか、はっと半分程目を開き、こちらを見た
「ーーんご」
「名前さん!?僕が分かりますか!」
声が出ない為ゆっくりと瞬きをする。意思疎通が出来たのか良かった、本当に良かった、ナースコールを押しながらそう繰り返す
間も無くして看護師が飛んでき、自分の意識がはっきりしてるか確認された
その際、水分補給をしていくらか喉のがさつきが和らぎ、きちんと受け答えをすれば、問題無いという判を看護師から貰う。後で診察をする、と私達に伝えた看護師は病室から出て行き、安吾と2人きりとなった
「何日寝てた?」
「今日で5日です」
私が思ってたより寝ていた。いやはやとんだ寝坊助だ仕事溜まってるだろうなー
「・・・貴女は危機感が足りなさすぎる」
「あ、はい」
「いつも言ってるでしょう。例え僕と同僚でありながら全く出世しなくとも貴女は異能特務課だと。」
「あれ貶してる?」
「当たり前です貴女はそう重要視してなくとも僕達の存在を知っている異能犯罪者にとっては格好の餌なんですよ!?しかも貴女は偵察員で外回りが多い、つまり異能犯罪者との距離が近い。偵察員の中では身を守る術に長けているとはいえ女性です。もう少し考えて行動なさい!」
「心配してくれてんの?」
「人質にでも取られたらこちらも出る他無いでしょう!!!」
「あーそれは厄介だもんなー」
私を心配してくれてるのかと思えばただの説教だった。
帰ってきたんだな、いつもの安吾だ、と説教は受け流しながら生きてると実感が湧いてくる
一瞬死んだなとか思ったから生きてて良かったなー身体痛いけど。と1人ぼんやり考える
「無事で、本当良かった・・・」
絞り出された枯れた声で、泣く事を我慢する子供ような、そんな表情で握られた左手に力が込められた。
昔昔に約束した私はまだ死ねない
震えてるその手を握り返そうとするも力が入らなかった