ガタッ…ガチャ。
扉の開閉音のようなものが近くで聞こえ、目が覚める。
周囲は真っ暗で何も見えない。手を伸ばしてみると、左右も前も壁に阻まれて身動きが出来ない。
狭い箱のようなものにでも入れられた?でも理由が分からない。
私はここに来る前、確か…
ああ、そうだ。刺されたんだ。
「やべえ、そろそろ人がきちまうゾ。早いところ制服を…」
少し高い声の、第三者の声が聞こえた。私以外にもここに連れて来られた人間なのだろうか?
「うーん!!!この蓋、重たいんじゃゾ。
 こうなったら…奥の手だ!ふな"〜〜〜〜それっ!」
辺り一帯が青い炎に包まれた。熱風がぶわりと全身を襲い、身を捩る。
え、まさか…葬儀されてる?
「ちょ、誰…か?」
目の前から明かりが漏れた。いや、私を入れていた箱の蓋が外れたようだった。
黄緑色に光り宙に浮く棺桶が多数と、真ん中には何も映さない大きな鏡が鎮座している。
「さてさて、お目当ての…ってギャーーーーー!!!オマエ、なんでもう起きてるんだ!?」
「狸が喋ってる。」
「誰が狸じゃーーー!!!オレ様はグリム様なんだゾ!」
耳が青い炎のように燃える、黒い毛の狸。
この狸はグリムというらしい。
私の元の世界では、異能力といった超能力を持つ人間は居たが、動物の類いが持っているというのは聞いた事が無い。
「まあいい。そこのニンゲン!オレ様にその服をよこすんだゾ!さもなくば…丸焼きだ!」
追い剥ぎかよ。動物なんだから服なんか着なくても良いだろうに。
それにしても、丸焼きか…異能力が戻っていればこんな狸一瞬で殺す事なんか造作も無いのだが、まだ力は戻っていないようだし…ここは誰かに助けを求めるのが良いだろう。
「誰かー助けてー」
「棒読みッ!あ、コイツ!待つんだゾ!」
撤退じゃ撤退じゃ。狸の使う炎に包まれるがそれを突破し、私は遠くの方へ逃げる。奴の足の長さと私の足の長さを考えれば、多分追いつかれる事は無いだろう。
「ここは…」
何の考えも持たずに適当に走ってしまったせいで、現在地が分からない。
入った部屋には大多数の本が棚に並んであり、数冊は宙に浮いている。図書室だろうか?
「オレ様の鼻から逃げられると思ったか!ニンゲンめ!」
「げっ」
また炎に包まれた。動物の嗅覚の良さを侮っていたようだ。これでは気配をいくら消しても匂いを消さない限り逃げる事は出来ない。
「さあ、丸焼きにされたくなかったらその服を――ふぎゃっ!?痛ぇゾ!なんだぁこの紐!」
「紐ではありません。愛の鞭です!」
第三者がグリムを捕らえた。ペストマスクのような仮面を付けて帽子を被った、変な男。
「ああ、やっと見つけました。君、今年の新入生ですね?ダメじゃありませんか。勝手に扉から出るなんて!」
「それに、まだ手懐けられていない使い魔の同伴は校則違反ですよ。」
今年の新入生?校則違反?どういう事だ。私はこんな場所に入学した覚えなんか無い。
「離せ〜!オレ様はこんなヤツの使い魔じゃねぇんだゾ!」
「はいはい、反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。少し静かにしていましょうね。」
「ふがふが!」
「まったく、勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です!」
いや、新入生じゃないんですけど。
「はぁ…どれだけせっかちさんなんですか」
「さあさあ、とっくに入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう。」
「新入生?いや、それよりも、」
「貴方が目覚めたたくさんの扉が並んでいた部屋ですよ。この学園へ入学する生徒は、全てあの扉をくぐってこの学園へやってくるのです」
「通常、特殊な鍵で扉を開くまで生徒は目覚めない筈なんですが…」
こいつ話聞かねえな。さっきから思ってたけど。
新入生はあの棺を介してこちらに呼ばれるようだ。…私、多分死んだと思うのだが、その時に誤ってこちらに転送でもされたのか?転送されるなら元の世界にしてくれて良いのに。
「炎が蓋を吹き飛ばしましたね…そういや。」
「結局元凶は全てこの使い魔のようですね。連れてきたのならちゃんと責任持って面倒を見なさい。」
いや、連れてきて無いんだけども…
「おっと!長話をしている場合ではありませんでした。早くしないと入学式が終わってしまう。さあさあ、行きますよ。」
「待って下さい、ここは一体何処ですか」
「おや?君、まだ意識がはっきりしてないんですか?空間転移魔法の影響で記憶が混乱しているんですかねぇ…まあいいでしょう。よくある事です。」
意識ははっきりしている。元の世界の事も、先程までキングスカラー一族で過ごして…そうだ。レオナ様。大丈夫だったかな。今は彼の安否を確認する術は無い。
「では歩きながら説明してさしあげます。私、優しいので。」
いや、それは自分で言わないでしょ。普通。

中庭に移動した。
「ごほん。ここはナイトレイブンカレッジ。世界中から選ばれた類稀なる才能を持つ魔法士の卵が集まるツイステッドワンダーランドきっての名門魔法士養成学校です。
そして私は理事長よりこの学校を預かる校長。ディア・クロウリーと申します。」
私、魔法使えませんけど…え、本当にここに何で呼ばれたのだろう。
「この学園に入学できるのは闇の鏡に優秀な魔法士の資質を認められた者のみ。選ばれし者は、扉を使って世界中からこの学園へ呼び寄せられる。」
「貴方のところにも扉を載せた黒い馬車が迎えに来た筈です。」
いや、痛みで気絶してましたが。全く以てその辺は覚えていない。
「あの黒き馬車は、闇の鏡が選んだ新入生を迎えるためのもの。学園に通じる扉を運ぶ、特別な馬車なのです。古来より特別な日のお迎えは馬車と相場が決まっているでしょう?」
いや、知らんがな。
「むがー!むががーーー!」
学園長と言う男の腕に抱えられている狸が、ジタバタ藻掻いて拘束から逃れようと必死になっている。
「さっ、入学式に行きますよ。」
そんな狸の事なんか気にせず、歩いて行く学園長の後を追った。