先程目が覚めた場所まで戻って来た。
「腹でも痛めたんじゃないか?」
入学式が終わったのか、ざわついてる扉の先。その先で聞こえた学園長を噂する声に、彼は扉をおもむろに開いてズカズカと中に入っていく。
「違いますよ!」
「あ、来た。」
「まったくもう。新入生が1人足りないので探しに行っていたんです。さあ、寮分けがまだなのは君だけですよ。狸君は私が預かっておきますから、早く闇の鏡の前へ。」
「ふぐぐー!」
いや、その狸私飼ってませんから。全くの無関係なんで。
「汝の名を告げよ」
何も映さぬ闇の鏡が、私が目の前に立てば黄緑色に発光した変な顔が浮かび上がった。うわ、気持ち悪ッ
「…名前です」
「ナマエ…汝の魂のかたちは…」
「わからぬ。」
「なんですって?」
「この者からは魔力の波長が一切感じられない…色も、形も、一切の無である。」
まあそりゃ魔法なんか使えないもの。
「よって、どの寮にもふさわしくない!」
周囲がざわめいている。そういった事例は初めてなのだろうか?
「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えに行くなんてありえない!生徒選定の手違いなどこの100年ただの1度もなかった筈。一体何故…」
考えられる可能性…
元の世界でも、盗賊に襲われた時も、死んだと私が感じた時だ。その瞬間に目を覚ましたら別の場所に居た。そういった作用が働いてしまったのだろうか?知らないけど。
「もごもご…ぷはっ!だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!」
「あっ待ちなさい!この狸!」
学園長の拘束から逃れた狸は、鏡の前まで来て私の隣に立った。
「そこのニンゲンと違ってオレ様は魔法が使えるんだゾ!だから代わりにオレ様を学校に入れろ!魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!」
「みんな伏せて!」
「ん”な”〜〜〜!!!」
部屋中に広がる青い炎が、生徒達にも魔の手が伸びる。尻に火が付いてしまった人も出てきたようだ。
「このままでは学園が火の海です!誰かあの狸を捕まえて下さい!」
「チッ…かったりぃな。」
「アラ、狩りはお得意でしょ?まるまる太った絶好のオヤツじゃない。」
「何でオレが。テメェがやれよ。」
誰もかれもが一癖ある生徒ばかりで、狸を捕まえようとはせず他力本願であった。
…ん?あれ。あの男の子。何処かで…
「みなさん、私の話聞いてます!?」
「はぁ…。狸捕まえるくらいアンタがやりゃいいだろ、センセー。」
ローブのような物を羽織り、頭もしっかり被って顔はしっかり見えない。…が、あの褐色の肌に茶色い髪。何処か既視感を覚える姿。
いや…まさかな。彼はまだ10歳未満だったし、他人の空似だろう。
私は狸を追いかける赤髪と銀髪の彼の背中を目で追った。