意識が浮上した。
先程まで…そう、オンボロ寮で眠っていた筈だ。ここは、何処なのだろうか?
目をゆっくり開き、辺りを見渡す。今見ていたのは…夢か。それにしても鮮明に見えたその夢、一瞬だけどちらが夢なのか分からなくなってしまった。
トントン
扉を叩く音がする。夜は既に更けているのに、こんな時間に何なのだろう?扉の音で目覚めたグリムも苦言を漏らしてしており、彼と共に廊下に出る。
「どちら様ですか」
「オレ。エース。ちょっと中に入れてよ。」
「こんな時間にどうしたの…ん?」
「げげっ!その首輪は!!」
扉を開いて彼を出迎えれば、ハートの形をした首輪を付けられたエースがそこに立っていた。
彼は大変ご立腹のようで、私達の寮生になると言って聞かない。
立ち話も何だし、とりあえず談話室に入れて彼の話を聞く事にした。
「タルト食った。」
「…?それだけ?」
「そーだよ。それだけ!」
小腹が空いたので冷蔵庫にあったタルトを食べたのだと言う。ホール3つ分あったので一切れ位拝借しても良いだろうと食べていれば、入学式の時グリムの魔法を封じた赤髪の上級生…ハーツラビュル寮の寮長・リドルに見つかったらしい。
ハートの女王の法律・第89条『女王の許しなくタルトを先に食べてはならない』。この法律に触れたエースは、彼のユニーク魔法『首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド』を掛けられ、魔法を封印されたらしい。
「…いや、それどっちもどっちじゃない?」
無断で食べたエースも悪ければ、魔法をかけるリドルもちょっとやりすぎだ。
まあ、怒り心頭である彼にとっては絶対にリドルが悪いと言う訳で。彼の事を罵倒している。
「心が狭いにもほどがあるじゃん!」
「まあ、やりすぎだとは思うけど」
「だろだろ?」
「ハッ!もしかして…3ホールもあったならパーティー用かもしれないんだゾ」
「成程。それは一理あるかもね」
「誕生日ィ?」
まあ確かに、1人で3ホールのタルトなど食べやしないだろう。もし食べれるとしたら今頃彼はまんまると太っているだろうし、フードファイトの決勝戦でも生き残れる。
「まず、謝った?」
「う…オレ、ナマエなら絶対に寮長が横暴だって言ってくれると思ってたんだけどぉ?」
「アテが外れたね。謝れば許してくれるんじゃない?」
「食べ物の恨みは恐ろしいんだゾ」
この狸、一言多いな。
「はぁ。わかったよ。謝れば良いんでしょ。…ナマエが提案したんだから一緒に来いよな」
「はー…しゃーない」
何処で寝ればいいの?と完全に居座る気満々のエース。自分達が使っている部屋以外はまだ掃除が完了していないと言えば、共に寝ようと提案してきた。
「談話室のソファにどーぞ」
「ちぇ。ケチ。」
完全に不貞腐れたエースがソファに寝転んで丸まったので、「おやすみ」と声を掛けて自室に戻る。
というか、普通この年頃だと思春期なのでは?男女が1つのベットを使うだなんて考えないだろう。この世界の住人はそういったのは無いのだろうか?

ドンドンドン!
扉を叩く音が聞こえる。その音で目が覚め、辺りを見渡すと朝のようでカーテンの隙間からは日が差し込んでいた。
「はーい」
寝ぼけ目のまま部屋を出て廊下を歩く。と、玄関先でエースとデュースが話をしていた。
「おはようお2人さん。どうしたの?」
「いや、寮内でエースがタルトを食べて寮長に首輪をはめられたと噂になっていてな」
「成程。それでここに居るんじゃないかとアタリを付けた訳か」
ちゃっちゃと身支度を済ませてデュース含めた4人で共に校舎に行く。
昨日、雑用係の立場を馬鹿にされたのを根に持つグリムは、首輪をはめられたおまぬけエースに向かって恨みを晴らしていた。
まだ授業が始まるまで時間もある、魔法を使う授業で魔法が使えないとなれば色々面倒だ。
寮長に謝って首輪を外してもらいに行く為、ハーツラビュル寮まで足を運んだ。

赤を基調とした寮の外観、その前には大きな噴水が設置されており、庭に植えてあるハートの形をした木にはバラが咲いている。
廃墟同然の見た目をした私達の寮と比べるのはやめておこう。虚しくなるだけだ。
メインストリートを逸れた道、バラの迷路に目尻にダイヤの模様が描かれた1人の男がペンキを持って立っていた。
「やばいやばい。急いで薔薇を赤く塗らないと。」
その男は、白いバラをペンキで塗っている。この光景…夢で見たような。
ダイヤの男をじっと見つめて居れば、彼は私達に気が付いたようで「何か用?」と話しかけてきた。
「それ、何してんの?」
「これ?見ての通り薔薇を赤く塗ってるだけだけど。」
「えぇ!?何でそんなことを?」
彼はバラを塗る説明をする前、私達がシャンデリアを壊した新入生だとまるで有名人にでも会ったかのように話し出す。
何なら昨日エースが起こしたタルトの騒動まで知られていた。話が回るのとても早くて驚く。
「ねねねね、一緒に写メ撮ろーよ♪イエーイ!あ、これマジカメ上げていい?タグ付けしたいから名前教えてよ」
完全に彼のペースが出来上がっていた。彼に名前を名乗ればマジカメとやらにアップされたらしい。
「あ、オレはデュースちゃんたちの先輩で3年のケイト・ダイヤモンドくんでーす」
ハーツラビュル寮生らしい。…随分軽薄そうな男だな、喋り方も今どきの人間みたいだ。
「って、話し込んでる場合じゃないんだった!パーティーの開催は明後日。遅れたら首が飛んじゃう。」
やっぱパーティーがあったのか。タルトを3ホール分作られてる理由も確定した。
「ねーねー君たち、薔薇を塗るの手伝ってくれない?」
他にもする事があるから忙しいのだと言う彼。
「そういや、パーティーというのはリドル…寮長?の誕生日をお祝いする為のものなんですか?」
「んにゃ?違うけど」
違うんかーい。エースが誰の誕生日なのか問う。
「誰の誕生日でも無いよ。明後日は我が寮伝統の「なんでもない日」おめでとうのパーティー」
誰の誕生日でも無い日を選び、リドルの気分次第で突然開催されるティーパーティー。それがなんでもない日のパーティーらしい。
そんな事よりも薔薇を塗れというケイトによって、彼の仕事を手伝う事になってしまった。