彼女…いいや、彼、リリアが自分の席に戻ってからは彼らの話を聞く。
ディアソムニア寮は魔法全般に長けた優秀な生徒が多いらしい。ああ、だから20m以上離れた席でもこちらの話が聞こえていた…のか?いや、それとも彼は人外か?耳が尖っているし少し風変りだ。
「寮長のマレウス・ドラコニアは世界でも5本の指に入る魔法士と言われてるくらいだ。」
「マレウス君は正直、ヤバヤバのヤバだよね。つか、それを言うならウチの寮長も激ヤバなんだけど〜」
「ほんっとにな!タルトを1切れ食ったくらいでこんな首輪つけやがって、心の狭さが激やばだよ。」
「ふうん?ボクって激ヤバなの?」
エースはリドルが背後に居る事も気づかず、ベラベラ彼の悪口を言っている。リドルの表情は険しい。
あーあ、しーらね。
我関せずとばかりに食事を進めていけば、グリムがリドルに話しかけた事によって流れ弾が当たってしまった。
規律違反を犯した私達の事を彼はあまり良い感情は持ち合わせていないようで、学園長は許しても僕は許さないとリドルが言う。
魔法の無い私が彼の魔法を掛けられた所で別に問題は無いし、彼に許されなかった所で学校生活に何か不便でもあるのだろうか?
「…あのー、ところで寮長…この首輪って…外して貰えたりしませんかね?」
「反省しているようなら外してあげようかと思っていたけど、先程の発言からしてキミに反省の色があるようには見えないな。しばらくそれを付けて過ごすといい。」
1年の授業は座学が中心だから問題無いと言う。わー、ハーツラビュル寮って色々めんどくさいね。
ハートの女王の法律に従って行動をするべく、それに伴って必要な角砂糖を買いに行くと言って出ていったリドル。
彼が来て少し静かになっていた近くに座るハーツラビュル寮の生徒が、大きな息を吐いて何処か安堵した表情を浮かべていた。
「俺、ハートの女王の法律・第186条「火曜日にハンバーグを食べるべからず」に違反してハンバーグ食べてたから見つかったらどうしようかと思った」
「はぁ…食うものくらい自由にさせて欲しいよな〜…」
凄いな、法律。そこまで制限されないといけないのか。食べれるだけマシと考えれるなら良いだろうが、そんな過酷な場所に居た事無い彼らにとっては窮屈で仕方無いのだろう。
「…寮長は、入学して1週間と経たずに寮長の席についた。少し言葉がキツくなりがちだけど、寮を良くしようと思ってのことで、根は悪い奴じゃないんだ。」
「根が良いヤツはいきなり他人に首輪つけたりしないんだゾ!」
ケイトとトレイが苦笑いをしている。先程の言葉が途端に説得力が消えてしまった。
「あの首輪、いきなり魔法が使えなくなるし、苦しいしで最悪だったんだゾ!」
「ん?リドルくんのユニーク魔法のこと?」
「ユニーク…ということは、寮長独自の魔法という事ですか?」
そういえば、キングスカラー家に居た頃から言葉だけは何度も耳にしていた。が、そういやちゃんと聞いた事無かったな。
「一般的にその人しか使えない個性的な魔法のことを「ユニーク魔法」と呼ぶ。そのうち授業でもちゃんと習うと思うぞ。」
やっぱ私達の世界で言う異能力のようなものらしい。それに加えて、この世界では飛行術や知識を付ければ使える魔法が使えるのが、この世界。
「リドルくんのユニーク魔法は「他人の魔法を一定時間封じる事ができる魔法」。その名も…首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド!」
…私の元の世界でも、相手に触れる事によって能力を使えなくする人が居た。その人とは同じ組織に入ってて、友人という関係性。彼は元気だろうか。
「魔法士にとっては魔法を封じられるのって首を失うのと同じくらいイタいからね〜。」
今現在、私は首を失ってる状態という訳だ。早く異能力が戻ってくれば良いのに…どうやって戻るんだろう。
「そういや、オレタルト買って帰らないとまたケイト先輩に追い出されるわけ?」
「そうだね〜ハートの女王の法律第53条でそう決まってるからさ。
 あとリドルくんは特にホールケーキの最初の1ピースを食べるのを楽しみにしてるからきっとホールじゃないと許してくれないよ」
1切れしか食べていないのにホール全て買い直さないといけないだなんて、可哀想だなエース。私なら食べてしまったホールと交換しろって絶対言うな。うん。
「しかし、タルトをホールでってだいぶ高くないか?」
「げー、オレそんな金持ってないんですけど。」
「じゃあ作っちゃえば?あのタルトも全部トレイくんが作ったやつだし。」
へえ、人は見かけによらないものだな。正直ここの学生は料理とか出来るように見えなかったので素直に尊敬する。
「確かに器具や調味料なんかは一通り揃えてあるが…タダで提供する訳にはいかないな。」
「えぇ〜!?金取るのかよ!」
まあ、そりゃ自分が勝手に食べたのだから材料は自分で揃えないといけないだろう。私は関係無いけど。
「次にリドルが食べたがってたタルトを作るのに栗がたくさんいるんだ。集めてきてくれないか?」
「どっちにせよめんどっ。で、どれくらい栗が必要なんすか?」
「何でも無い日のパーティーで出すとすると…2〜300個くらいかな。」
ホールで作るとなるとそんなに必要なのか。あまり甘味の知識は無いし、ケーキをホールで作った事も無いので驚いた。
「栗に熱を通して皮を剥いて裏ごしするところまで手伝ってもらおうか。」
「オレ様、帰って良いか?」
「僕も」
「後は頑張れ、エース」
「薄情者!」
そんな作業やってられるか。手伝わない意思を伝えれば、ケラケラ笑うケイトと、苦笑いするトレイが私達を乗せようと言葉を連ねる。
「寮長には内緒だけどマロンタルトは作りたてが1番美味いんだ。出来たてを食べられるのは作った奴だけだぞ。」
「おうおうオマエら!気合い入れろ!栗を拾って拾って拾いまくるんだゾ!」
…グリムがやる気に満ちあふれている。
グリムの監督は私がやらねばならない。つまり…そう、手伝わないといけないのだ。ほんとグリムの変わり身にちょっと頭に来る。ほんと調子が良い。
「ハァ…栗は何処で拾えば良いんですか」
「随分投げやりだな。あー、栗の木は学園内の植物園の裏の森にたくさんあったはずだ。」
「よーし、んじゃ、放課後植物園の前に集合で。」
「ゴーゴー栗拾い!なんだゾ〜!」
結局手伝わないといけないのか。エースに買ってあげたパン、返して貰おうか。