中庭。
エースがいつの間にか持っていた網で注意を逸らし、デュースの召喚魔法を使って大釜をグリムの頭上に出し、ひっ捕らえる。
授業に出たくないとぐずるグリムの首根っこ引っ掴み、教室まで戻る。

昼休み。
大食堂に足を運んだ。不貞腐れていたグリムがお昼になった途端に機嫌を戻し、ビュッフェ形式であるテーブルに突っ込みそうな勢いだった。
あれも、これも!グリムが言う言葉のまま私が皿に取ってやる。
「あだっ!」
「グリム?」
「あ〜〜〜〜〜っ!?オイテメェ!お前がぶつかってきたせいでパスタの温玉が崩れちまったじゃねえか!」
はしゃいで周りが見えなくなったのだろう、グリムは他の生徒にぶつかってしまい、反動でグリム自身が吹っ飛ばされてしまっていた。
うーわ、めんどくさい事になってしまった。変なやっかみを付けてくる2人の生徒に頭を抱えそうになる。
「おいおいおい〜ぷりぷりの温玉を崩すのはカルボナーラ1番のお楽しみだぜ?どう落とし前つけてくれんだよ!」
「慰謝料としてお前の取った鶏肉のグリルくらい譲ってもらわないと、釣り合いがとれねぇなぁ」
ああ、そういう事か。これが欲しくてわざとぶつかり、温玉をわざと崩しでもしたのだろう。弱いチンピラが取る手法だ。元の世界では女を舐め腐ったクソ男がよく私を囲って来た事もあったなぁ…懐かしい。まあ、そいつら全員殺したけど。
グリムは鶏肉のグリルを渡したくないと反発する。
「あ?新入生のくせに先輩に対する態度がなってないんじゃねえの?ちょっと裏来いよ!」
成程、とてもやりやすくて良いじゃないか。つまりはこいつら全員反撃してちょっと痛い目見せれば良い訳だ。
「せ、先輩。校則に魔法での私闘は禁じると…」
「え、そうなの?」
駄目なのか。案外窮屈な校則である。命を奪わなければ別に良くは無いか?…今まで生きて来た場所って、実は相当野蛮な場所だったりする?
「私闘〜?これは先輩から後輩への教育的指導ってやつだよ!」
「歯ぁ食いしばれ!」
殴りかかってくる上級生の拳を往なし、足を引っかける。相手は体勢を崩したのを確認し、背後から迫ってくるもう1人を投げ飛ばす。
自分の身1つだけを使った私闘。これならば”魔法での私闘”には該当しないので問題無い筈だ。うん。
「失礼ですが、これでは教育の範疇にも入りませんねぇ。…応用でも教えて頂けるんでしょうか?先輩」
「もう1度ぶん投げてやろうか」という本音を隠して地に伏せた2人をにっこり笑顔を貼りつければ、奴らの口角は引きつって恐怖の色を見せる。
「お、思ったよりやるじゃねぇか…」
「パスタが伸びちゃうから今日のところは見逃してやるっ!」
「ハッ口ほどにも無い奴らだ」
パスタも置いてその場から去って行く奴ら。どの麺が伸びるのやら。
「さて、ご飯食べよう」
若干引いてる3人を放って、自分の食べたい物を皿に取り分け席に座る。
「では気を取り直して!いただきまーす!」
ガツガツ食べるグリムの隣に水を置いてやり、私も取り分けた食材を口に運ぶ。
食べ物は良い、空腹を凌げるからだ。しかもビュッフェ形式だからどんなに沢山取っても怒られないし、高価な砂糖をそれだけ使っても良いと言うのだ。破格な対応である。
「ところでオマエたちの寮は今朝見たけど他の寮ってどんなのなんだゾ?」
「学園のメインストリートにグレート・セブンの石像が立ってたじゃん?あの7人に倣ってこの学園には7つの寮があるんだよ。」
グリムの問いに答えるのはエースでもデュースでも無かった。
「げっアンタは今朝の!」
「ケイト先輩…」
今朝の事や呼び方について不満をぶつけるデュースとエースとグリム、悪びれもなく満面の笑みを浮かべるケイトと、目尻にクローバーの模様のある男。
「どちらさんですか?」
「おっと、悪い。俺はトレイ。トレイ・クローバー。ケイトと同じく、ハーツラビュルの3年だ」
オンボロ寮を使っている人間というのは結構目立つのだろうか。自己紹介するまでもなく彼に名前を覚えられていた。
ちゃっかりエースの隣に座り、共に食事を取る流れになった。
「まーまー。せっかく同じ寮に入ったんだから仲良くしよーよ。とりまアドレス交換で〜!」
ほんとこの人軽薄だな。
「スマホ持ってませんので」
元の世界ならあるけど、こちらに来た時には通信機器は持っていなかった。購入するにもお金が掛かるし、そのお金も学園長にちょっとだけ貰った雀の涙程。
「最新機種安くしてくれるお店、紹介したげるよ〜今度スマホ選びデートどかどお?」
「結構です」
ちょっと引いていればトレイが助け船を出してくれ、寮の話へと戻った。
厳格な精神に基づく「ハーツラビュル」寮
百獣の王の不屈の精神に基づく「サバナクロー」寮
海の魔女の慈悲の精神に基づく「オクタヴィネル」寮
砂漠の大賢者の熟慮の精神に基づく「スカラビア」寮
美しき女王の奮励の精神に基づく「ポムフィオーレ」寮
死者の王の国の勤勉な精神に基づく「イグニハイド」寮
茨の魔女の高尚な精神に基づく「ディアソムニア」寮
寮によって腕章の色が変わってくるらしい。
「ホワッ!超かわいい女の子がいるんだゾ!」
「エッ!?男子校なのに!?」
男子校…?
「アホ。男子校に正式入学した奴に女がいるわけないでしょーが。」
え、待って。目の前に居るけど。女。
成程、得心がいった。エースが私のベットに入ろうしてきたのは、私を男と勘違いしていたからか。正式入学した訳じゃない私は例外という事は考えに至らなかったのだろう。バレたら色々厄介そうだ。
あれ?待てよ、つまり入学式にだってピンクのインナーカラーを入れた、少し古風な話し方をする可愛い子ちゃんは…
え…?つまりあの子、男の、子…?
他の人達が会話をしているが、全く話が入ってこない。
「リリアじゃ。リリア・ヴァンルージュ。」
頭上から話しかけてくる、入学式で見た可愛い子ちゃん。
「お、おぉ…」
ビックリした。噂をすればなんとやらという奴か?それにしても、近くで見てもこんなに可愛らしいのに、男の子だなんて。
この世界、案外美形揃いだな。末恐ろしい。