内務省異能特務課に対してこういう噂がある
動く人形が居る、と



「動く人形って、絶対名前先輩の事ですよね!?」
休憩中、他部署の噂話を耳に入れた辻村はたまたま見かけた上司の坂口安吾にそう問いかけた
「まあ、そうでしょうね」
「ですよね!?何でそんな噂が立っているんでしょう・・・」
「まあ、あの外見がその噂を立てているのでは?」

陶器のように滑らかで白い肌
糸のようにきめ細かく解れが無い長い黒髪
長い睫に縁取られた燃えるような赤い目
すらっとした長い手足
ふっくら桜色をした艶やかな唇
喜怒哀楽が欠落しているかのように乏しい表情
彼女――名字名前はそれはそれは美しい。
何処かの英国貴族が出てくる漫画に出てきそうな、絵に描いた女の容姿だ
彼女の欠点といえば表情が全く変わらない、無を貫き何を考えてるか分からない
その姿を廊下やロビーで一目見るだけの他部署ではこう噂される

まるで人形のようだ、と―――


「え、でも先輩って結構表情変わりますよね?」
「えっ」
「えっ」
坂口安吾は驚いた
確かに入社当時よりかは表情の変化は出るようになった、気がする。というより雰囲気がなんとなく変化する程度だが。
が、常人よりかは遥かに乏しいにも関わらず、それを新人が見抜くとは思いもよらなかったのだ
「よく見抜きましたね」
「まあ、エージェントですから」
「何の話をしているの」
えっへん、と胸を張り得意げにする後輩の後ろから、どこからともなく現れたもう一人の後輩――名字名前が声を掛けてきた
「うわぁああ!?!?せせせ先輩!?」
「凄い驚きよう」
「吃驚したぁー・・・そりゃいきなり後ろから話しかけられたら吃驚しますよ!」
「うーん」
腕を組み少し首をかしげる姿は悩んでるようだ。顔は全く変わらないが
少し間を置いて「よく分からない」と結論を出した。彼女の異能力の前では背後から近づこうが驚きが無いようだ。
「それは先輩だけですよ!」
「気配があれば誰でも気づくと思うけど」
「少なくとも先輩は気配感じませんでしたよ!」
「消してたから」
「気配消した先輩とか絶対感知出来ません!」
確かに彼女の気配の消し方は異能特務課1番だろう。鍛錬積んでいる精鋭でも彼女の気配だけは感じ取れないと零していた。
事実、対面して向かってくる彼女を辻村より先には気づいたが故意で気配を消していた時の動きが滑らかで異能力でも使ったかのように現れたような錯覚を起こした程だ。
「まだまだだね」と少し得意げ、いや得意げなのだろうか、「ちょっと得意げにしないで下さい先輩・・・!」「ごめん、ごめん」どうやら得意げにしていたようだ。
女性同士だからなのだろうか、1番長く仕事を共にし、彼女の事をよく見ていた自分よりも彼女の変化に気づき仲の良い後輩に少し尊敬し、羨ましくもあった。
子供のような嫉妬心を隠すように少し咳払いをし、「そろそろ仕事に戻りましょうか」と後輩2人に笑顔を向け、仕事場へと足を向けた