2学期が始まりだいぶ経ち、日が落ちるのが早くなったほんの少しだけ肌寒い学校の帰り道
と言ってもセーターを着れば過ごしやすい風が吹く季節である。
私はこの季節がとても好きだ。あまり暑いのは好きでないし、寒いのも苦手
いつもこんな季節だったらいいんだけどなぁ、と空を見上げる
あの雲なんか鯛焼きみたいだなあとぼんやり考えていた時、視界がぐるりと回った
何が起きたのか全く分からず、頭に?を浮かべている間に気づいた。私はどうやらずっこけたらしい。どう転けたのか鼻よりおでこが痛いし手の平も少し擦りむいたのだろうか、じんわりと痛みが広がった
うわこれめっちゃ恥ずかしい、誰にも見られてませんよう「大丈夫ですか?」
思い切りこけたのを目撃されたのだろうか。じんわり顔に熱を持つ感覚を感じながら、低くもとても落ち着く声に顔を上げる
色素の薄い滑らかそうな肌、閉じた目に縁取る長い睫、目尻には紫色のアイシャドウ?が線を引く。スッと通った鼻筋、整った眉毛、カサつきなど一切見せず薄いながらも魅惑的な唇、光によりキラキラ輝く黒髪の先端にかけて白く染まるふんわりとした髪を持つ人物が心配が滲み出た困惑な表情を浮かばせる。
とっても美人だ。この世に降り立った神なのかと思う。太陽が彼女の後ろから光を放っている為、より一層神々しさが増す
スラッとした身体に気品溢れる座り方、同じ人間として座り方1つここまで違ってくるのだろうか
「あの、大丈夫ですか?」
「だっ、だいじょぶです!!!」
上から下まで眺めながらピシリと固まる私に再度声を掛けてくれた彼女
慌てて返事をするが呂律が回らず思わず噛む
ずっこけるわ噛むわで今日は最悪だ・・・脳内で1人反省会をしていると、ニュッと視界に手が入る。
薄い長袖から見える細い手首、手先まで手入れが施されてるかのように美しい指、全体的に骨張った手は彼女のものだろう。思わず手もガン見する
「立てますか?」
「あ、はい」
「どうぞ掴まって下さい」
どうやら立たせてくれる為に手を差し伸べてくれたのだ。綺麗な彼女の手に自分の手を重ねる
グッと思い切り引かれ、よろける事無く立ち上がる。この細身のどこにそんな力があるのだろう。
「あ、あのすいません・・・」
「いえ、・・・おや」
何かあったのだろうか。私の顔をジッと見つめ、「少し待って下さい」と私を引き留める。
鞄の中身を漁ってる彼女を真っ正面から見る。とても綺麗な女性だな、こんな女性が歩いていたら男も黙っていないだろう。ナンパでもされないだろうか。こんな人が彼女だったら嬉しいよなぁ、彼氏さんが羨ましい・・・いやいや何考えてるんだ私は。
先程の思考を飛ばすように頭を振り、引き留めて何の用だろうか、ぼんやり彼女を待つ。
「こちらをお使い下さい」
彼女が差しだしたのは皺1つなくピッチリ折りたたまれた真っ白なハンカチ
端にはJ.Tと刺*されている。きっと彼女のイニシャルだろう
だが、ハンカチを差し出される理由があいにく見当がつかず、言い淀んでいると「額に血が滲んでいますのでどうぞお使い下さい」と付け足した
「え、でもハンカチが汚れてしまいますし・・・」
「構いません、その為のものでしょう」
「え、ですが・・・」
「少し失礼します」
そう断ると距離をつめてくる彼女の顔を見る為自然を向く形となった
近い、凄い近い。花のようなとても良い香りがする。彼女の匂いなのか、柔軟剤の匂いなのか。
彼女の手が私の前髪をさらりと分け、おでこにハンカチを乗せる
綺麗な人が目の前に居るためか少しパニックを起こした私はその動作がスローモーションに見えた
「血が止まるまでこのまま抑えてて下さいね」
「あの、えっと」
「申し訳無いのですがこれから急ぎの用がありますのでこれで失礼します。あまり無理はされないで下さい」
「あ、はい」
心配そうな顔をこちらに向け、ぺこりとお辞儀をして足早に去る彼女
脳が焼き付け離れない彼女の匂いを思い出しながらその後ろ姿を見えなくなるまで呆然と見つめ、足早に帰宅する
彼女の事を思い出すだけで胸が苦しい、顔に熱が集中するのが感じる。
彼女から貰った私の血が滲むハンカチを見つめ、胸に抱く
「J.Tさんかぁ・・・どんな名前なんだろう」
美しい容姿を思い出しベットに転がり込んだ
ああ、友達よ。私は女性に恋したようです