私の事

数日後、羊の構成員だった私に情報提供を求められ、ポートマフィアの最上階、その部屋の主である首領の森鴎外に呼び出された。
私の監視は2人。中也と赤い髪を持ち和服を着こなす綺麗な女性だった。2人は森鴎外の後ろに控え、片や私の1つ1つの仕草に警戒をし、片や心配そうな表情で私を見つめる。中也が居る方が話しやすいだろうという事で決められた人員らしいが、正直言ってそれどころではない。首領と、その隣に立つ彼女の底知れぬ殺気が混じる佇まいにビビりっぱなしだった
「ふむ、中也君より長く居る為か色々知ってるようだね」
「大体の方針は私が決めていたので」
「話は以上だ。時間を取らせて悪かったね」
「いえ…」
「ところで、質問があるんだがね。」
「あ、はい」
「君たちを人質に攫う際にこちらにも損害が出ているのだが、目撃した構成員が言うには何かおかしかったと言っていてね。何か心当たりは?」
「っ…おかしい、というのは」
証言によれば、銃撃戦が終わった後、その構成員は心臓に銃が命中して死んだのだと言う。検死結果によると、死んだ構成員の身体には銃弾が残っており、それは羊から押収した拳銃の弾とは一致せず、ポートマフィアが武装していたものであったと。そもそも、あの時私達は丸腰であったので反撃など不可能だ。それに、目撃していた複数人の構成員が口を揃えて言っていたのだ。「周りが驚きざわついている中、1人だけ無表情でそれを眺める子供が居た」「捕まっていない羊の構成員に逃げろといち早く指示をした君がしたのではないか」と。
そう言う首領に対して冷や汗が出る。こちらの仕草、表情1つ1つを決して見落とさないように射貫くその瞳、急激に冷えた空気に、確かにこれは出し抜くとか考えれそうにないなとゴクリと生唾を飲む。
「…そ、れは」
「ああ」
「…ッ、それは、羊の情報提供とは逸れるのでは、無いでしょうか。現に、貴方は「質問をしたい」と言いました。」
「ふむ、確かにそれは一理ある。だがね、こちらも損害が出ている訳だしねぇ。じゃあ言い方を変えようか。情報を吐きなさい、さもなくば君も同じ道を辿る事になるよ」
有無を言わせない殺気と圧力に、一瞬呼吸を奪われた。逆らえばきっと殺されてしまうだろう。ドッと冷や汗が滲み出て、手をギュッと握る。中也には聞かれたく無かったなぁ、森鴎外の後ろで待機してる彼の顔をチラリと見ながら、諦めの境地に入り一呼吸を置いてから言葉を紡いだ。
「…私の、異能力、です」
「ほう?それはどんな?」
「…分かりません。発動条件なども自分でよく分かってないんです。ただ、この異能は人を殺す力がある、と思います」
「その異能が発動したのはどんな状況下だったか聞かせて貰えるかい?」

1番最初はいつだっただろうか。確か、4歳位に親に連れられ公園に遊びに行った時だっただろうか。私が遊具で遊んでいると、知らない男にいきなり抱きかかえられ誘拐されかけたのだ。自分が誘拐されてると理解していなかった私は、親の方に手を伸ばすも、男の方が足が速いせいで親が小さくなって距離が出来る恐怖と混乱で、わあわあ泣き喚いた。それもすぐ親が追いつき、良かった、良かったと私の事を抱きしめてくれた。誘拐した男は私の側で倒れていて、警察と救急車が駆けつけた時には男は既に事切れていた。

2度目は私が捨てられる少し前、父方の祖母の所に行く事になった私は大変憂鬱だった。何せ、その祖母は両親の結婚に反対だったのか、私の母親によく意地悪をしてくる奴で、その間に出来た子供である私もその対象になるのは遅くなかった。祖母の機嫌が悪いと熱いお茶を掛けられたり、その場にある物を投げてくるのだ。良くてもネチネチ暴言を吐かれるのは当たり前であった。
そんな祖母が、私に茶碗を投げてきた。それは顔面に迫り、ギュッと目を瞑る事しか出来なかった私の顔に掛かったのは、生暖かい祖母の血液だった。
目を開ければ既に惨状であった。その茶碗が割れた破片が祖母の頸動脈に刺さり、辺りは血の海になっていた。その場は大混乱となり、私は呆然と祖母だったものを眺めていた。恐らく、私が捨てられたのはこの出来事があったせいなのだろう。

3度目は貧民街で大人に虐げられてる時だった。その時に初めて自分は人と異なる力を持っているのではないかという発想に至った。なんせ、その男の死に方が全く以て不可解だったのだ。虐げてきた人間が一斉に暴行を受けたように顔面を腫らしながら倒れるなど普通あり得ないだろう。
そう、その1ヶ月後に私だけを連れ込んできた男も多分そうだ。気持ち悪くて気持ち悪くて死因を確認する事は無かったのだが、そいつも私の異能力で死んだ1人なのだろう。
その後も何度か抗争が続いた時、私を狙っている人間が不自然な死を遂げる事があった。
そして今回話題に上がったポートマフィアの構成員だ。私達に銃を向けてきた時に、異能力が発動したのだろう。銃弾が壁かどこかで跳ね返って当たったのかと思ったが、恐らくこれは私の異能力だと自分の中で納得した。

異能力を持っている事は羊の構成員にバレる事は無かった。私だけを連れ込んできた男の始末を彼らがやった事により、一部の人間に怪しまれる事はあったが、一目見て分かるような異能力を持つ中也が現れたからは私に対する疑心も無くなったようだ。中也も中也で異能力を使う事に抵抗が無かったようで、むしろ羊の為に喜んで使ってくれた。だから私は何の力も持たない、普通の人間として息を潜める事に成功したのだ。
そう私が説明すると、辺りはシンと静まり返っていた。2人は興味深そうに、1人は驚きを隠せない表情で。
「説明有難う。ふむ、君を害そうした手段で死んでいくとは、中々興味深いね」
「どうするのじゃ?首領」
大人2人が話し合ってる中、中也がズカズカと私に近づいてきた
「何で、何で教えてくれなかったッ!」
「…」
「何か言えよ、名前!」
「…他人とは違う手札を持つ人間は、その責任を果たさないといけない。」
「は…?」
「中也の口癖だよ。よく言ってたよね。
…でも私はそう思わなかった。何も持っていない中、圧倒的な力を持つ者が現れたら、きっとそれに依存してしまう。私は、自分自身でどういう異能か全く分からない力を振るうのが怖かった。だから、貴方を利用して自分だけ助かる方法を選んだ。」
「ッ…」
「私ってこういう人間なの。嫌な人間なの。貴方の異能を初めて見た時、何を考えたと思う?使えるって思ったの。」
何も言わない中也に、私は俯きながら自分は嫌な性格な人間だという事を打ち明ける。これが事実なのだ。彼は仲間思いの優しい人だから、その人達の為に異能を振るった。それにより私は異能力を持っている事もバレず上手く隠れる事に成功した。中也がマフィアに寝返ったと聞いた時、肝が冷えた。彼が居なくなる不安とかじゃなく、彼が居なくなった後に異能力を持っている事がバレたらどうしよう、と。きっと中也のように彼らに使われ、私が少しでも変な動きをすれば殺されるだろう。
本当自分の事しか考えていない最低な人間だな、と声も出さずに冷笑うと、ふと森さんから声が掛かった。
「うーん、名前君、ポートマフィアに入る気は無いかね?君の異能力の詳細が分かるかもしれない」
「え…わ、私はそんな大層な人間では…」
「決めるのは君だよ。」
普通の人間のように生活し、自分が持つ異能も発動条件も分からない中、普段通りに過ごせるのか。そう最後に脅されたが、正直中也が居るこのポートマフィアで働ける自信は無く、決断出来無かった私は返事は待って欲しいと伝え、そのまま解散になった。彼に嫌われ、お互い機嫌が態度に出てしまう私達は確実に私情が出るだろう。それは避けるべき事である。
私はもうこれ以上人に嫌われたくなかった。

下まで送ってあげなさいと首領命令により、隣に並んで律儀に私を送ってくれる中也と1度も会話する事無く、ポートマフィアの出口まで辿り着いた。「じゃ、じゃあ…」と彼に視線を合わせる事無く、笑みを浮かべて手を振る。そのまま見送られる事も無く、帰る場所も無く路頭に迷うであろう私に、中也は声を掛けてきた。
「おい、ちょっと待てよ」
「…なあに?」
「手前、これからどうすんだ」
「…何も、考えて無い、かな。まあなんとか生きるよ」
「…こっちに来る気ねぇのか」
「え?」
「俺は別に怒っちゃいねえ。むしろお前には世話になった。お前の役に立てたってんなら悪い気はしねぇ」
「ッ…」
「やっとこっち見たか」
彼がどんな表情をしているか見るのが怖く、合わせる顔も無かったので視線を下げたまま会話を続ける。すると、意外な返事が返ってきた。私は彼を利用する為に一緒に居たのに、彼は、恩を返す事が出来たと言うのだ。バッと彼の顔を見ると、私が想像していた冷酷な目つきではなく、嘘偽り無いその瞳と優しい表情をしていた。
「ったく泣くんじゃねぇよ莫迦」と頭を撫でてくれる彼の手は暖かかった。


後ろ足で砂を掛ける
(数年後、幹部になった彼の元で働く事になるとは夢に思わなかった)