決断
それから1ヶ月、GSSと結託する事が決定し、中也を裏切る事に決めた羊は、今日、彼の殺害を実行する。
作戦は至ってシンプルで、殺鼠剤を塗りたくったナイフで相手の弱点を突く。例えそれで死ななかったとしても、銃で武装した羊の構成員とGSSが発砲し、蜂の巣でフィニッシュだ。そう語る構成員達の話を思い出す。基本的に強者である中也の唯一の弱点は、油断している隙に、視界の外から攻撃する事だ。そうれば中也は攻撃する暇も無い。たまに油断している時に反撃を食らいそうになり、それをよく白瀬が援助していたし、中也自身もそれが弱点だと言っていた。毎度毎度私が注意しても、全く聞く耳持ってはくれなかった。重力使いの彼をナイフを刺そうとした所で相手が潰されるに違い無いのだが、今回は状況が違う。きっと、裏切られると思っていない中也は、仲間が声を掛けてきたと思うだけで警戒などしないだろう。
GSSと手を組むつもりは更々無い私は、彼らの拠点に移動する事になった数日前から行方を眩まし、元々拠点を置いていた貧民街で暮らしていた。作戦が実行される今日、目的地まで走りながら中也に電話を掛けるが繋がらない。舌打ちをしながら携帯をポケットにしまい、走る事に集中する。人にぶつかろうが、段差に躓き地面に伏せようが、すぐさま足を前に動かして1秒でも速くその場を目指した。
だが、私が着いた時には一足遅かった。危機が迫っている事を事前に伝えようと走っていたのに、私が見た光景は白瀬が中也を刺していたのだ。刺された脇腹を押さえながら倒れる中也がスローモーションのように見え、茂みからは他の構成員とGSSが出てきた。顎を動かし、白瀬が何か指示をしようと言葉にする前、私は彼の前に飛び出した
「中也!」
「く、んな名前、」
「な、名前!?お前、やっぱり俺達を裏切ったのか!?」
ぐったり力なく倒れる中也を起こす。最初に拾った時のようだな、それよりかはだいぶ重くなったかと思い出に更けていると、白瀬の口から「こいつら纏めて殺せ」と怒号が飛ぶ。咄嗟に動いた中也が、私に覆い被さって異能を使い、弾丸の雨から守ってくれる。だが、数が多い。このままでは私諸共蜂の巣になるだろう。2人で身体をゴロゴロ回転させ、狙いを定めにくくし銃弾を避ける。ある程度距離を取ってから中也が異能を使い、崖下に落ちる。運良く足場になっていたのか、その場所まで落ちて尻餅をつきながらどうにか難を逃れる。この砂埃であれば、息を潜めていれば今だけは隠れる事は出来るだろう。だが、羊やGSSが私達を逃してくれる訳も無い、ここもじきに見つかる。毒が回ってきたのかぐったりしている中也の上半身を起こす。酷い汗だ、内ポケットに入れていたハンカチで彼の汗を拭うと、弱々しい手で私の腕を掴んできた
「な、んで…来た」
「…」
「お前は、そのまま…あいつらと居れば良かったんだ…そしたら狙われず、に、済んだ」
「…中也」
ふと、足音がこちらに向かってきた。まさかもう見つかったのか、いいやそれは無い。上からまだ話し声が聞こえる。じゃあ誰だろうか。そちらに目を向けると、そこには黒ずくめの男達が多数、私達の前に現れた。
ポートマフィアだ。その中心に立つ同い年位の包帯を巻いた男と中也が会話を進める。どうやら、彼らは中也と取引をする為にこちらまで来たようで、2人で話を進めていく。要約すると、GSSと羊を殲滅したいポートマフィアが裏切られた元・羊の構成員である中也に情報を提供しろと取引したのだ。情報を提供してくれたら皆殺しという方針を変えてもいいと言う。羊の構成員は殺さない事を条件として、中也はその条件を呑んだ。無事に取引は成立し、踵を返そうとする包帯の男は「ああ、そこに居る君も後で話は聞かせて貰うからね」と一言私に伝え、中也は心配そうに私の事を身ながらも包帯の彼に対して悪態を吐いていた。
「…中也」
「ん、だよ」
「さっきの返事、なんだけどさ」
「ああ…何で俺を追いかけた」
「…その、」
「あぁ」
「…ごめんね、これも私が生きる為なの」
「っ…」
「私は貴方を利用したの。ごめん」
「そうか…」
「ごめん、本当、ごめんなさい」
「…謝んじゃねえ」
「、」
「俺が、お前を、拒むわけ…ねぇだろうが」
言い淀む私の言葉を待ち、私の事を不安そうな顔をしながら見つめてくる。私の最低で、最悪な考えを意を決して中也に話した。ああ、きっと嫌われた。これできっと彼と一緒に居れるのも最後だろうなぁ、今までの思い出が走馬燈のように流れ鼻の奥がツンと痛くなる。だが、意外にも帰ってきたのは肯定的な返事であった。
ああ、本当彼は優しい。殺そうとしてきた羊に対しても殺すなと言う。優しすぎて彼が騙されないか心配だ。胸の内から溢れてくる何かが、やがて涙となりボロボロ零れ落ちる。
そのまま気を失い、力無く項垂れる彼の顔は心底穏やかだった。