数日ぶりの再会

「おっと、そろそろ食料調達しないとやべぇな」
「あ、本当だね。じゃあ今日は誰が行く?」
「あい!おえ!」
「君はまだ早いから駄目。」
「んぅ〜〜〜…そと、」
「お外はまた今度行こうね」
「うん…」
昼食を終えて私の腕に引っ付いてくる彼をそのままに、白瀬と会話をしながら拠点を歩いてる時に食料が尽きそうな事に気が付いた。少し前に結構な収穫があり、山盛り置かれていたそこには持って数日分しか無いだろう位まで減っていた。人数が少しずつ増えたので食料の減りが結構早いのだ。これは早い事調達しに行かねばまずいだろう、善は急げだ。誰が食料調達しに行くかと白瀬と会話してる中、他の用で出払っている今の拠点でそれなりに経験があるとなれば白瀬だ。最近入った子達に経験を積ませるのも良いが、その子も別の用で居ない。
「んじゃ、俺と名前で行くか」
「あ、足引っ張らないかな…」
「まー今居る奴らの事考えたらお前が1番適してるんじゃね?」
「そ、そう…?じゃあ行くよ」
「おう。ただなぁ」
「ぶぅ…」
「こいつを説得する方法が思いつかねえ」
「確かに…」
今拠点に居る子に彼を預けようとしたのだが、それはそれは物凄く駄々をこねられた。俺も連れて行かないと嫌だ、絶対離れないぞと言わんばかりに外に出ようとする私の腕を引っ張って拠点に留まらせようとしてくる。「こいつ居た方が安全だからちょっと貸してくれって」「私の帰ってくるこの拠点を守ってくれたら嬉しいなー」白瀬と私がなんとか説得して彼を拠点で留守番させる事に成功した。ただ、表情は物凄く険しい。頬をパンパンに膨らませてこちらを凶悪な目つきで睨んでくる。
「早めに帰ってくるから、ここは頼んだよ?」
「ん、」
「良い子」
「いいこ、あたま、ん!」
「頭撫でるの?もう、仕方無いなぁ」
「ふへ、」
物凄い不機嫌なまま放置したら後々が大変だ。彼に近寄ってなんとかご機嫌取りをする為に声を掛ける。彼は頼られる事が嫌いではないのか、私が頼み事をしたら結構聞いてくれる。勿論、手伝ってくれた後はちゃんと褒めて感謝の気持ちを伝える。それによって良いサイクルが生まれ、彼から手伝いを申し出てくれる時もある。今回は言葉巧みに頼み事に結びつけ、拠点を任せると言う事によって頼られた彼は不機嫌なまま私の腕を放してくれたのだ。帰ったら反動で目一杯構わないといけないだろうが、それはそれだ。
「じゃ、行ってきます」彼に見送られながら今日はどれ位収穫があるだろうと話ながら白瀬と共に食料調達に向かった。

「クソっ見つかった…逃げるぞ!」
「う、うん!」
今回、少し離れた場所に盗みに行ったのが孔をなしたのか、両手一杯に積み重なった食料を見て「今回は結構な収穫があった」と2人でホクホクしながら、そろそろ日が暮れるし帰ろうかと言っていた時だった。突如後ろから「待ちなさい!」と大声が聞こえ振り返ると、私達を追いかけてくる大人2人の影があった。恐らくスーパー警備員だった奴らだろう、いつも行く場所では追手など来る事も無かったので油断していた。以前どこかで拾ってきた帽子を被っていたので、恐らく顔は見られてないだろうが周りから見たらボロボロの服を纏ってる私達は正直異常だったのであろう。目撃証言など聞けばすぐに見つかりそうな身なりをしている私達は、紛れやすい人気の多い場所まで走り、奴らを撒くために狭い路地や抜け道を利用してなんとか追手を撒く。後ろを確認してみれば、もう奴らの姿は無かったので足を止めた。
「なんとか撒いたか…」
「そ、そうだね…ゼェ…」
「大丈夫か?とりあえずここでちょっと休憩しようぜ」
「ありがと…」
それなりの距離を走った私達は、狭い路地裏で息を整える。それなりに体力がある白瀬でも息が上がっており、体力が無い私は既に限界が近かった。周囲を警戒しながら酸素を取り込み、これからどうするか白瀬と話す。
「なあ、お前ここが何処か分かるか?」
「え、白瀬も分かんないの?」
「え」
「え」
「…俺ら、迷子になっちまったか…?」
これはまずい事になった。

夜では視野も狭まり危険だと判断し、早朝から動く事にした私達は盗んだ食料で腹を満たし、仮眠を取る事にした。小さな子供しか潜り込めそうも無いこの路地裏は、全く人通りも無く静寂が支配していた。いや、路地裏を出た道路にも人通りは殆ど無いようで、足音1つ聞こえやしなかった。片方が眠ってる間、片方は起きて周囲を警戒する方法で交互に身体を休めていく。正直休まった感覚は無いが、それは白瀬も同じだろう、文句を言っても始まらないのでただただ夜が明けるのを待った。
太陽が顔を出してきた早朝、私達は路地裏から出た。あまりスーパーの方には近づかない方が良いだろうと走ってきた方向の反対側の道路に出たのはいいものの、周囲を見ても全く見た事の無い風景が続いている。元々、最近入った子が以前この辺りにスーパーがあると聞いて今回初めて来たのだ。拠点とはだいぶ離れてるこの場所は、白瀬も私も此処一帯の土地勘などある訳が無く、恐らくこちらから走ってきたよな、と脳内の地図で慎重に足を進める。捕まらなかったのは不幸中の幸いだが、正直拠点に戻れる目処も立たないし、幸い食料はここにあるが無限にある訳も無く、最悪餓死する可能性だってある。周囲の人に聞くにしろ、私達は拠点やその周辺の住所を知らないのだ。これは長期戦になるなと頭を悩ませた。

「あ、あれは…」
「や、やっと分かる場所まで来たか…?」
「うん、この通り道は以前見た事がある、だいぶ近いよ…!」
「やった…やっと俺達拠点の近くまで来れたんだな…」
拠点から出て早3日が経過していた。比較的スーパー付近に居た最初の方は警備員に見つかって追いかけられる事もあったが、それでもなんとか逃げ切り、また分からなくなった現在地でもお互い励まし合いながら拠点を探すべく足を進め、やっと私が見た事のある抜け道を見つける事が出来た。ここからだと後30分位はあるだろうが、それでもこの数日は見えない戦いをしていたのだ。気の持ちようが全く違う。気持ちが高ぶり少しスピードが速くなる中、抜け道や近道を利用してやっと貧民街の入り口まで辿り着いた。
「後もうちょいだな…気張れよ、名前」
「白瀬もね」
お互い服だけじゃなくズタボロになっていた。げっそりした表情に目の下には隈を浮かべ、ろくに水分補給をしていなかったせいで唇はカサカサだ。それに、ここ数日分減ってしまったがまだ大量にあるずっしり両手にのし掛かる食料。やっと近くまで来たという安堵から座り込んだら立てなくなるだろう、緩んでく気を引き締めなんとか踏ん張って持ちこたえる。早く拠点に戻って疲れを取りたい一心で足を前に動かす。そして、ついに訪れた
「やっと…着いた…!」
「よくやったな名前!」
「白瀬も!」
「わああああおかえりいいいい」
「ただいま!」
「死んだかと思った…!」
「縁起悪いからやめろよ…」
漸く拠点まで着いて喜びのあまり白瀬と抱き合う。すると、見張りについていた子達が声を上げ、わらわらと拠点から出てきて出迎えてくれる。食材を近くに居る子に渡しながら、いつもいの一番に飛びついてくる彼が居ない事に気づいた
「あれ、あの子は?」
「ああ、今隔離中」
「隔離!?」
「だって、名前の言う事しか聞かないんだもん」
「そーそ、名前が帰ってこなくてずっと泣いて暴れるし物壊すし拠点の外で座り込んで待ってるしさー」
「え、それちゃんと寝てたのかな…」
「朝通りがかった時は寝てたから大丈夫じゃない?」
「ご飯はちゃんと食べてた?」
「いんや、渡してもいらないってそっぽ向かれてさー。」
「いや、側にパン置いたらいつの間にか無くなってたから食べてるんじゃない?」
「そっか…今どこに居るの?」
「こっちだよ、着いてきて」
天下の我儘君は私をまだ休ませてくれないようだ。案内してくれる彼女の後ろを着いていくと、拠点の中は荒れ果てていた。足の踏み場も無いレベルの惨状具合に、よくここまで暴れ回ったなと逆に感心しながらもため息が零れた。どうやら、これを1日でした訳では無く、片付けたらまた散らかすので私が帰ってくるまでは放置していたらしい。「あ、ここだよ」と部屋に連れてこられ、中に入る。彼は入り口に背を向けるよう座っており、いつもはうるさい位にはしゃいでるのに、妙に静かで落ち着かない。
「ただいま」
「っ!」
「ただいま」
声を掛けるとビクリと身体を揺らす。どうやら起きているようなので、もう1度声を掛けるとゆっくりを彼がこちらを見た。眉間に皺を寄せ、両目には涙が今にも零れ落ちそうに波打っており、口を震わせている。早く帰ってくると言ったのに、3日も待たせてしまったせいだろう。今までこんなに離れた日は無かったので寂しい思いをさせてしまった。私は彼に向かって両手を広げた
「おいで」
「っ、」
「おわ!…ごめんねぇ」
「うっう”ぅ…う”ぅ”ぅ”〜〜〜〜〜」
「ごめんね」
「ぅ”、う”ぅぅう”わぁぁあああ”あ”あ”」
突進してくる彼を受け止めきれる体力は無く、そのまま尻餅をついてしまう。ギュウギュウ力いっぱい抱きしめて声を上げて泣く彼の頭を抱きしめて、ああ帰ってきたんだなと彼の髪を梳く。
「おあ”え、り!」
「ただいま」
「ん”ぅ〜〜〜〜〜!!!」
「ごめんねぇ、待っててくれてありがとね」
「ん”っ!」
泣き止みそうにない彼をあやしていると、次第に落ち着き、いつの間にか泣き声は止んだ。肩に頭を置いてる彼を見てみると、どうやら眠ってしまったようでスヤスヤ規則正しい寝息が聞こえた。そのまま私も後ろに倒れ、眠りについた。
それから丸1日は私から全く離れてくれず、次の日から彼が散らかした物を片付けようとするも、そんな事より構えと引っ付いてくる彼を引き剥がしながら整頓していくと、構ってくれない腹いせに私が片付けた物を地面に落とす彼を皆が見て逆に忙しいから外に出ろと拠点を追い出されてしまった。