カーテンの隙間から差し込む光は、やわらかく音もなく、夜の名残を少しずつ溶かしていく。
その光の中で、私は――まだ、眠りの続きを見ているみたいな気持ちで、隣にいる七海の気配を確かめた。
当たり前のように、すぐそこに彼がいる。
胸の奥に、じんわりと熱が広がる。
起きているときよりも、少しだけ無防備な寝顔。
きちんと整えられているはずの輪郭が、朝の光のせいかどこか柔らかく見える。
見ているだけでいいはずなのに。
……触れずにいられない。
私は、そっと身を寄せて、その腕に抱きついた。
ぎゅ、と控えめに。
でも、離す気はない抱き方で。
あたたかい。
それだけで、心まで緩んでしまう。
しばらくして、七海が小さく息を吐いて、目を開けた。
一瞬、状況を確かめるみたいに瞬きをしてから、私を見る。
「……おはようございます」
低くて、まだ少し眠りを引きずった声。
「おはようございます」
そう答えながら、私は腕をほどかなかった。
むしろ、ほんの少し力を込める。
「……近いですね」
「……だめですか」
「……いえ」
即答しないのが、少しだけ可笑しくて、少しだけ愛おしい。
七海は小さく咳払いをしてから、私の背中にそっと手を回した。
抱き返す、というほど強くはない。
でも、それは――離すつもりのない手だった。
「……よく、眠れましたか」
「はい。すごく」
そう言って私は、そのまま胸に顔を埋める。
心臓の音がすぐ近くで、規則正しく鳴っている。
「……もう少し、このままがいいです」
「……朝ですが」
「わかってます」
それでも、離れない。
七海は少し困ったように、でもどこか諦めたみたいに息を吐いた。
「……あなたは、本当に……」
言い切らないまま、私の頭を軽く撫でる。
その手つきがあんまり優しいから、私はますます離れられなくなる。
「……七海さん、あったかいです」
「……体温は、平均的だと思いますが」
「私にとっては、ちょうどいいです」
その言葉に七海は、ほんの一瞬、動きを止めた。
それから、低く短く。
「……そうですか」
腕に、少しだけ力がこもる。
私は顔を上げて、そのまま見上げる。
朝の光の中で、距離がひどく近い。
言葉が、いらない距離。
どちらからともなく、少しだけ顔が寄る。
軽いキス。
確かめるみたいな、短いもの。
それで終わるはずだったのに、私はもう一度、腕に力を込めてしまう。
「……もう一回」
小さく言うと、七海はわずかに眉を寄せた。
「……朝から、ずいぶんと……」
そう言いながらも、今度は七海の方から、軽くキスを返してくる。
短くて、でも、ちゃんと応える意思のあるキス。
「……満足しましたか」
「……もう一回」
「……」
七海は、しばらく私を見つめてから、小さく息を吐いた。
「……ほどほどにしてください」
そう言って、でも今度は額にそっとキスを落とす。
「……これで、終わりです」
「……名残惜しいです」
一瞬、言ってしまった、という顔。
でも七海は、ほんの少しだけ目を伏せてから。
「……私もです」
ぽつりと落ちたその言葉が、胸の奥で静かに広がる。
「……ですが、そろそろ、起きましょう」
「……はーい」
そう返しながら、私はまだ少しだけ、腕を離さない。
「……あと十秒」
「……十秒だけですよ」
きっちりした口調なのに、ちゃんと待ってくれるのが、ずるい。
十秒たってようやく離れると、七海は名残惜しそうにもう一度だけ、私の頭を撫でた。
「……行きましょうか」
「……はい」
並んでベッドを出る。
昨夜より、ずっと健全で、ずっと静かな距離なのに、それでも確かに近い。
朝の光の中で私たちは、少しだけ笑い合って次の時間へ向かう。
胸の奥にまだ、ぬくもりを残したまま。