3-2.無邪気な熱

タクシーに乗り込んで、10分もしないうちだった。
前方で事故があったらしく、車列はほとんど動かなくなってしまった。

「……これ、しばらく進まないかな」

透子が窓の外を見ながら呟く。

「回転寿司なのに、ネタが回ってないな!」 
「上手くないわよ、それ」

虎杖の冗談に、釘崎が目を座らせて即座に切り捨てる。
運転手からも「この先は読めません」と告げられ、結局、目的地の手前で降りることになった。

「歩いた方が早そうだね」 
「だな。すぐそこだし」

虎杖がそう言って、先にドアを開ける。
降りてみると、夕方の街は思った以上に人が多かった。
自然と、歩きやすい順に並び、隊列ができていく。

先頭は釘崎と伏黒。
その少し後ろを、透子と虎杖が並んで歩いている。
虎杖は無意識のうちに、透子の歩幅に合わせていた。
早すぎもせず、遅すぎもしない。
相手の呼吸を乱さない速さ。

「なぁ、時雨」

他愛もない調子で、虎杖が声をかける。

「寿司、何から食う?」 
「……白身」 
「渋いな!」

その会話の間、虎杖の視線は一度も、透子から逸れなかった。
歩きながら、人の流れを避ける時、自然に半歩前に出て、透子の進路を空ける。
ぶつかりそうになれば、声をかけるより先に、距離を詰める。
それが特別だと、本人だけが気づいていない。

少し後ろを歩く五条は、その一連の動きを、静かに眺めていた。

釘崎と話す時の虎杖は、もっと大雑把だ。
伏黒と並ぶ時は、歩調なんて気にも留めていない。
それなのに今は、透子の隣でだけ、丁寧だ。

五条は、アイマスクの奥で目を細める。

虎杖がふと立ち止まり、透子が少し先に行ってしまう。
その瞬間、迷うことなく、虎杭は歩幅を広げた。
追いついたあと、何事もなかったように会話を続ける。

五条はそれを見ながら、何も言わずに歩き続けた。