3-3.彼はそれを抑えることができない

店に入ると、レーンの音と人のざわめきが一気に押し寄せてきた。
透子は、思わず一歩足を止める。

「……すごい」 
「だろ。初めてだと圧あるよな」

虎杖が、楽しそうに言う。
受付を済ませ、案内されたのは五人掛けのカウンター席だった。
横一列に並ぶ形で、自然と順番を決める流れになる。

「俺、端座るわ」
「はいはい、アンタは端でいいわ」

伏黒の言葉に、釘崎が即答する。
伏黒が席に着くと、続くように虎杖が隣に座った。
透子が少し迷うように立っていると、虎杖が当たり前のように、隣を手で示した。

「時雨、ここ」

中央の席だった。
一瞬、言われた意味を理解するのが遅れて、透子は瞬きをする。

「……いいの?」
「?  いいけど」

疑問形ですらない。
透子が腰を下ろすと、反対側には、釘崎がどさっと座る。

「虎杖、アンタ、透子の隣に勝手に座ってんじゃないわよ」
「釘崎だって隣に座ってんだろ!?」
「私が二人いたら、透子の両隣埋めてやったのに……」
「でも、時雨も回転寿司初めてだし」

言い切る。

「俺、ちょっと教えられるし」
「……は?」

釘崎が言葉を失う。
伏黒は、メニューを見ながらぽつりと呟いた。

「……過保護だな」
「え?  そうか?」

虎杖はきょとんとしている。
透子は、レーンを流れていく皿を見つめながら、胸の奥が妙に落ち着かないのを感じていた。
隣にいるだけなのに、距離が、近い。

「まずはこれな」

虎杖が皿を一枚取って、透子の前に置く。

「白身、さっき食うって言ってたろ」
「……覚えてたんだ」
「覚えるだろ」

何でもないことのように言う。
そのやり取りを、五条は釘崎の隣に座りながら眺めていた。

誰かを守る配置。
無意識に一番安全な位置へ置くやり方。
それを好意と呼ぶには、本人の自覚が、まだ足りないだけだ。

「時雨、醤油どれ使う?」
「……普通のでいい」
「了解」

透子の前に、必要なものが次々と揃っていく。
その間、虎杖は一度も、自分の皿を取らなかった。

(……なんでだろう)

落ち着くのに、心臓の音だけが、少しうるさい。
透子は、自分でも理由がわからないまま、レーンを見つめていた。

「野薔薇には僕が教えてあげるよ〜」
「まぁ、虎杖よりはマシか」
「釘崎、俺に対してずっと当たり酷くない!?」