1.自分と似た少女
一目見て、すぐにわかった。
こいつは、俺と同類だって。
俺はまだ小学生で、津美紀と二人で暮らし始めたばかりだった。
五条さんが後見人になって、俺たちの生活は最低限保証されることになった。
禪院家との話は、五条さんが全部まとめて片付けたらしい。
将来、俺が呪術師として働くことを条件に、高専から生活費が出る形になった、とだけ聞かされた。
詳しい仕組みなんて興味はない。
金の出どころがどこだろうが、俺たちのやることは変わらない。
最低限、生きていける場所がある。
それだけで十分だった。
俺と津美紀は、その枠の中で、ほとんど自力で生活していた。
そんなアパートの一階の部屋の前で、そいつはいつも座り込んでいた。
暗く沈んだ顔。
痣と傷だらけの頬。
靴も履いていない足。
虚ろな目でこっちを見てくる。
ああ、と思った。
こいつも親に捨てられてる。
俺と同じだ。
年も、たぶん同じくらいだった。
「……それ、なに」
ある日、玉犬を出す練習をしていると、後ろから声がした。
振り返ると、二匹を指さしている。
「見えるのか」
「? 見えるけど」
きょとんとしている。
俺の言ってる意味が分かっていない顔だった。
つまり、普通は見えないものが見えていることを、自覚していない。
術師の素質があるやつの目だ。
玉犬から視線を離さないので、近づけてやった。
恐る恐る手が伸びる。
ふわふわの毛並みに触れた瞬間、さっきまで死んでいたみたいな目に、ほんの少しだけ色が戻った。
玉犬が頬を舐めると、くすぐったそうに目を細めた。
その顔が、やけに子どもっぽくて。
「……また、撫でていい?」
「……好きにしろ」
小さく笑った。
ぎこちなくて、慣れていない、不器用な笑い方だった。
それから、玉犬と会わせるのが日課になった。
最初は撫でるだけ。
そのうち少し話すようになって。
気づけば、津美紀も交えて三人で飯を食うようになっていた。
名前は、清華ひより。
事情は聞かなかった。
聞かなくても、だいたい想像がついたから。
五条さんに会わせたのは、少し経ってからだった。
「へぇ……なるほどね」
軽い調子で言いながら、ひよりを上から下まで眺める。
それから、ひよりの前にしゃがみ込んで目線を合わせた。
「怖くない?」
「……?」
「呪いとか、変なのとか。普通はだいたいビビるんだけど」
ひよりは少しだけ考えて、
「……恵がいるから、平気」
そう言った。
五条さんが一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑った。
「そっか」
ぽん、とひよりの頭を軽く撫でる。
「じゃあ大丈夫だな」
立ち上がって、俺を見る。
「……まあ、才能はある。ちゃんと面倒見とけよ、恵」
「……言われなくても」
「はいはい」
相変わらず軽い。
金と呪いの話だけさっさと片付けて、あとはいつも通り適当な顔をしている。
突き放してるみたいで、気づくと全部整えて帰っていく。
五条さんは、そういう人だ。
その一言で、ひよりの居場所は決まった。
それから。
ひよりがうちにいるのは、当たり前になった。
気づけばもう、最初からそこにいたみたいに。
一目見て分かった。
こいつは、俺と同類だって。
――だから、放っておけなかった。
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