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窓の外の景色に目を惹かれた。

 ピンクや黄色に薄い紫が咲き誇る儚げで悠々とした花達は、どこか誇らしげで勇ましく見える。

「もう開けた場所に出たんだな…」

誰かに言うわけもなく、ただ独り言を花達に向けてぽつりと呟くと、自然と笑みが零れた。
のんびり眺めていると、急に重心が左に傾き、少し驚いてしまう。
列車が進行方向を変えたせいだ。お陰で色鮮やかな花畑は、緑と茶色の木々によって見えなくなってしまった。

「はぁ…」

ため息の大きさに自分がどれだけ落胆しているのかが分かった。大自然の緑や茶色が嫌いな訳では無いが、見続けるとなるとはやり酷なものである。



ティール・ドイルは列車にいた。アトラス発の船から遥々やってきて、列車で目的地を目指している…が、目的地があまりにも遠い。ミストラルの広大な土地を列車がゆったり走るせいもあって、永遠にこの地獄が続くのかと思ってしまう程だ。なので彼は、頭を窓ガラスにぶつけたい衝動に駆られるほど暇を持て余していた。
更にいえば、4人ほど座れる個室に一人。例え、自分が人と話せないいわゆる“コミュ障”でも、寂しさを感じるのは仕方無いと思いたい。

「暇だなぁ」

嘆いても仕方なかったので、暇を潰そうと趣味である絵を描こうとした…が、段々とやる気が失われていき、ペンを置いた。ゲームでもしようとすれば目が痛くなり、車内にいるティールは乗り物酔いが酷くなった。食べ物で腹を満たせば暇が潰れるだろうと思い、駅で好奇心を擽る見たことの無い商品を買うも、殆どがハズレだった。特にタイヤのゴムみたいな味がしたのは吐きそうになった。好奇心で買うべきではないと後悔しながらゴムの味がするグミを噛み続けた。

そうこうしている内に、時計がひと回りする時間になった。まだ到着しない列車に嫌気がさす。
あと何分で着く、というアナウンスが今すぐに欲しい。ティールは観光気分でミストラルを回りたいとわざわざヘイヴンから遠い土地に降り立つ事を決意した先週の自分を呪った。

「なぁ、ここいいか」

突然、扉が開いたかと思えば他人の声が聴こえて驚いた。驚愕とした顔を上げれば、ニット帽と眼鏡を着用した強面で長身の青年がいつの間にか入口前に立っていた。

「え、あ…」
「…別に、ダメならいい」
「あ、いえ…どうぞ…」

誰も来ないと思っていたので、私物が自室の如く散乱していた。誤魔化すように苦笑いを浮かべながら、慌てて散らかったスナック菓子の袋や絵が描かれた紙を豪快に寄せて無理矢理スペースを作る。それを見た青年は呆れた目線をティールに送りつつ、向かいの席に腰を下ろした。

(やっぱり話しかけた方がいいのかな…)

青年は何も言わずにただ無表情で外の景色を眺めているのに対し、ティールはどう話を切り出そうかと焦っていた。
見るからに恐らく同い年、そしてヘイヴン・アカデミー行きの列車に乗ってるということは同じ新入生の筈。つまり、今のうちに仲良くしたいのだ。
友達作りは挨拶から。母から何度も言われた言葉だ、流石にこの年になって友達が数える程しかいないのはまずい、色々とまずい。そんな後押しもあって、絞り出す声でティールは勇気を出して話しかけた。

「お、俺はティールって言うんだけ、ど!君にょ名前は…!」

噛んだ。




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