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時間は5分ほど前まで遡り、ランスロットが駅のホームで列車を待っている所から話は動き出す。
彼は人が多い列車に乗る事に少々気乗りはしていなかった。人がほとんど居ない駅のホームでも、人目を気にするような仕草でニット帽を被り直し、腰に巻き付けていた上着の裾をキツく縛った。
目的の列車がホームで停車し、すぐさま乗り込んだ。
乗り込んだのは良いものの、ランスロットが乗車した列車は個室で相席前提で作られた列車だった。きっと豪華列車を民間用に改良した為だろう、ランスロットはため息をついた。
自分は愛想は良くない事を自覚してる、それに無口だ。もし俺が相手側ならきっと気を悪くするだろうし気まずくなる。ランスロットは部屋の中を流し見しながら廊下を進んでいく。
しかし、なかなか望む部屋が見つからない。半ば諦めた気持ちで最後の部屋を除くと、ゴーグルを付けた青年が一人ぼーっと外を眺めている。出来れば1人で個室を占領したかったランスロットは、中に居る青年を脅して追い出す事を考えた。だが家から駅まで歩き、更には良い席を見つける為に歩き回ったせいで、脅すよりもひとまず先に腰を下ろして休みたかった。
そんな思いも相まって、気づけばドアを開けていた。
「えっと、ごめん。誰も来ないと、思っちゃってさ…」
「ああ、来ないだろうよ」
こんな変なのが描かれている紙が散らばった部屋に。
未だに紙を拾い集めてまとめるティール。入る前は何やら怪しげな絵が描かれている紙が散らばっていたせいで、入室するのを戸惑っていた。気になって近くに落ちていた紙を数枚手に取る。
そこに描かれていたのは、お世辞にも上手いとは言えない何かだった。恐らく四足歩行である動物だと思いたい。首が微妙に長く、黒いまだら模様がある動物。牛か、シマウマか、はたまたキリンか、そもそも線がガタガタで見えにくい。推理する事すら面倒な絶妙に味がありすぎる画力に、ランスロットは眉を顰めて紙をティールに渡す。ありがとうございますとお礼を言われ、リュックにしまわれた。
「ファウンテンさん…は、ヘイヴン行き…ですか」
「…ランスロットでいい、敬語も止めろむず痒い。ああそうだヘイヴンに行く、それがどうした」
話しかけるなオーラ全開に睨みつけながら受け答えをするランスロットだったが、人との関わりを最小限に収めていたティールがそれ気づけるはずもなく、なにか答えなければとろくに考えもしないまま口を開いた。
「あ、いや、俺も実はヘイヴンで、出来れば、あ、入学生って意味でして、それで、出来れば…仲良く……やっぱなんでもないです……」
後半は早口な上に小声だったのでランスロットの耳には入らなかった。
目を合わして話さないティールに、ランスロットは眉を顰める。ゴーグルのせいでは無い、明らかに目を逸らされている事が直感で分かる。理由はそれだけじゃない、先程も言ったように小声で早口な上、言葉一文字一文字を喋り慣れてないのか区切って話すもどかしさに若干の苛立ちが芽生えたからだ。
ヘイヴンに着くまで話さなければなんの問題もない。話しかけられないように、ランスロットは目を瞑った。
「えぇ…っと、」
流石に目を瞑ってる人間を揺すり起こしてまで話そうという気にはならないが、話せない状況が作られた事にティールはほっと安心感を覚えた。
そして再び列車が止まり、このまま降りて道中タクシーで行くべきだろうかと考えたが、何となくこの場を離れにくくなっていた。
「すんませーん!ここ空いてます?空いてんじゃん、座ってもいい?てか座るね!よろしく〜!」
突然聞こえてきたのは明るい声と有無を言わざずに同席を促す言葉だった。乗車してきたであろう乗客2名(ーというよりもその内の1人)が遠慮無しに部屋に侵入して来た。
夢と現実の境界を行き来していたランスロットは、心地良さを中断されて声の主を帽子の影から睨みつけた。
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