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「Oh, Nice to meet you,Mr.Shimada.
(はじめまして、島田さん)」

 本日、ピカデリーの大使館でひっそりと挨拶が交わされた。

「He is an interpreter Jouzi Yushima.
(彼は通訳の湯島譲二《ゆしまじょうじ》です)」
「Nice to meet you Mr.Cedric.
(はじめまして、ミスター・セドリック)」
「Nice to meet you too Mr.Geo.
(こちらこそ、ミスター・ゲオ)」

 日本人通訳の譲二と髭の白人紳士、イギリス防衛省役人を名乗るセドリックの挨拶も握手のみで「さて、」と、譲二を連れて来た島田は先を急く。

 「Oh,Yes.」と人柄も良さそうに席を促したセドリックは確かに、役人には違いないだろう、3人もの護衛をつけまるで威嚇体制である。

「大歓迎だな湯島」

 島田は皮肉を言うのだが、始終ニコニコと腕を組みセドリックの一言一句を待っている。
 なんとなく、譲二はこの商談が碌でもないものだと知っている。

「まずはゲンナマを見なければ取引のしようもないよな」
「はぁ…」

 セドリックは通訳を求めて譲二を見るのだが「まぁまぁ、」と島田は言うに留まるのだが話は急いている。

「I want to check cash.」
を訳そうにも
「いくらだと言っている?」
と島田も同じ事を聞く矛盾が生じていた。

「…セドリックは先に現金を確認したいようですが」
「まぁそうか。物が物だからな。同時でどうか」

 「Simultaneously please.」と促せばセドリックには「ハハ」と笑みを浮かべるだけの余裕があるようだ。

 「OK.」と言ったセドリックは持ってきたアタッシュケースをテーブルに乗せてこちらに見せてくる。
 開示された9oのダブルアクションを手にした島田は「へぇ、かっこいいもんだねぇ湯島」と突きつけるように譲二へ銃口を向ける。

「こいつ、俺をなんだと思ってんだろう。
 ちなみに相場はいくらだ湯島」

 島田はそのケースに拳銃を戻し、次に500gはありそうなマリファナの袋を見て「へぇ、」と呟く。

 所謂、そういう仕事だった。

 譲二の仕事は
 「When are you available?」
と聞くセドリックを介して
「如何でしょうか島田さん」
と振るのだが、それについては睨まれるので「わかりませんよ」と正直に答えるしかない。

「80しかねぇと伝えてくれ湯島」
「はぁ、
 There is only 800,000 \. Is 7,237.66 $」

 譲二がスーツのポケットから商業用電卓を取り出しズレた眼鏡を上げポンド計算をする。

 それを見たセドリックがふむ、と一息を吐いたので、
「50でも吹っ掛けられそうか」
と島田はニヤニヤするが
「多分無理ですね」
と、セドリックの護衛三人を見て、言う。

 こちらも外に五人の護衛はいるとしても、今この場を考えれば、誤り殺される可能性が高い。
 ここは政治家ですら同族のような国だ。

「ここは60で引き下がった方がよろしいかと」
「てめぇはいつから俺に商談の口出しをする身分になったんだ湯島。マリファナなんざそれでも、こっちは大分親切な値を出してると思わないか?友好関係を築きたいのだが」

 そう言って睨まれるのだから仕方のない。

 この役人風情も結局は“役人風情”でしかないと、島田もセドリックも完全に互いをナメ腐っているようだ。

 ここではマリファナなど市場は1g13$で話が付く物だ。
 この拳銃がいくらだかは知らないが、正直60万円が丁度良いと譲二は踏んでいる。

 ふふ、と笑ったセドリックは言う、
「Are you messing with me?
(ナメられたものだな)」
と。
 こうなってきたら話は友好にもならない。雲行きに「When are you available yen.」と値下げをするしか。

 正直これでもまともな値だが、島田が言いたいのもわかる。市場価格とはこちらもナメられたものだと返したい。

「I heard that the market price is 1g 13 $ in Canada.
(カナダでは市場価格が1g13ドルだと聞き及びましたが)」

 パチパチパチと譲二が電卓を叩けば「All right」とセドリックは言う。

「The market has no meaning.
(相場では意味がありません)」

 試しにやってみようかと「500,000 \、Is 4,523.68 $ available?」と、譲二はセドリックに吹っ掛けた。
 当たり前に渋い顔をされるものだ。

「Let's get along,Mr.Cedric.
(仲良くしましょうよ、ミスター・セドリック)」

 畳み掛ける。

 考えたセドリックはふと笑い、
「OK.You got me.(いいよ…負けたよ)」と大袈裟に手を上げる。
 成立した。

 譲二は島田に「50いけました」とシンプルな報告を入れる。

「マジか湯島」
「まあ、はい」
「じゃぁ50くれてやれ」

 「I'm looking forward to working with you.」と、譲二が50万が入った封筒を渡そうとしたときだった。

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