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 色々話を付け、騒動の話をすれば結果、「金で話をつけましょう」と周りがなり、早々に二人は立ち去ることになった。

 八鶴は深々と「ホントに申し訳ない」と、最後まで可哀想なくらい謝っていたが、

「まぁ、こいつが悪いんです」
「そうですわてが悪いんです」

 それだけ言って取り敢えず薬を一週間分、あとは八景に調合を書いた書を残して二人は立ち去った。

「はっはー!金入ったしあと一晩いるつもりだったし遊廓行こうぜ!」

 鳥居を出た瞬間に朱鷺貴はにやにやして明るく翡翠に提案した。

「えっ、なんやあんた」
「いやぁ流石だねお前神掛かっとるわ。なんだかんだお前の口淫顔見たらこう…京以来女抱いてないせいかなんか込み上げちゃったわー。流石だね凄く淫乱だったわー」
「ちょい殺してええ?」
「お前だってあんなことしといてまさかムラっときてないわけ」
「ないですけど!」
「だろー♪行こうよ行こうよ♪てぇかお前ってどっち?」
「あんさんマジで最低ですな。女ですわ当たり前やろ男児やで」
「だよなー!あの顔美人にさせてーぇ」
「下品非常に。
 お褒めに預り光栄ですな、してやりましょかムカつくなぁ」
「やだよ俺女がいいー」
「だらしなっ。顔だらしなっ。
 まぁ、わては「魅せる系男児」言われてたんで!実際は先輩方に「お前焦れったいわ」と怒られて表に立てんかったけどね!」
「え、そーなの?」

 素直に驚いてる朱鷺貴に、「はぁ?」と翡翠は不機嫌に返した。

「えお前裏方ぁ?」
「そーですよ悪かったねぇ。裏方言うかふらっといる男娼でしたわ」
「え、全然わかんない」
「まぁあれです。男娼婦慰め役みたいなやつ」
「え」
「まぁ人目につく仕事も裏方としてやってたんで、目についてご指名もありましたけどね」
「マジかすげぇ世界」

 素直に感心してるがいささか翡翠としては胸糞悪い。

「え、お前ってまさかだけど童貞?」
「いえそん辺はちゃんと、人気さんより暇やったんでぇ、隣の女宿で抜いてましたわ」

 開き直った。

「マジか」
「いやこっちこそマジか。あんさん坊主やろが」
「だって遊廓行く機会あったんだもん男児だよ?遊ぶに決まってんじゃん」
「胸張っちゃならんやつやん、この煩悩坊主!」

 つくづく坊さん向いてない。好きでなったわけじゃないにしてもそれって慣れたりしないの?
 しないか、自分も場所は違えど境遇は大差ない。
 自己完結した。

 そのまま本当に二人で遊廓に行った。
 しかし、遊廓に入ってすぐだった。

「あんさんら、あの寺から逃げてきたん?」

 と女将に言われた。

「は?」
「なんや火事やて大騒ぎやで今」
「え?」

 はっとした。
 そういやヤクザやら浪人やらが彷徨いていると西運が言っていた。

「まさか…」
「トキさん、大変や!」

 翡翠は朱鷺貴を引っ張り、今来た道を戻り寺が見える位置に立ってみた。

 山は燃えていた。

「なっ、」

 唖然と立ち尽くす二人の背に。

「おー、よく燃えちゅうがなぁ」

 聞き慣れた方便が聞こえた。郭から出てきたのか、なんなのか。

 それに二人が振り向けばあの船渡しと、武士数人がいて。

「あらぁ、西洋の火薬やな恐らく」

 船渡しが面白そうに山を眺めて言う。

「…あんたらがやったのか」
「違いますわぁ。俺がちょっと大砲を買い入れてヤクザに流しただけですわぁ」
「誰じゃ坂本《さかもと》、知り合いか」

 船渡しの左隣にいた、
いかにも上質な袴姿の目が切れ長の男が言った。どうやらこの男、下駄だ。階級は高いだろう。

「あぁ武市《たけち》さん。
 ほら、船旅のお客さんやさかいに」
「船旅?」
「せーよーの火薬ってなんじゃ!直柔!」

 船渡しの後ろから、ボロい着物を来た髪を高く結った、いかにも素浪人のようなボロい男が興味深そうに船渡しに言う。しかしこの男、殺気が他よりもある。

「以蔵《いぞう》ちゃんにはまだ早いきに」
「どう言うことだよ船渡し」
「ん?
 俺らも資金には困っとるんですわ。まぁ、こいつらにはわからんき、俺がヤクザに売ったんやけど」
「どういうことじゃ坂本」

 仲間割れを始めたらしい。
 しかし物騒、そう思ったとき。

「はい、あんたのお陰で目的に辿り着いたわ坂本はん」

 低い西訛りの強気な声が、今度は寺方面から。
 朱鷺貴はまた振り向く。
 藤紋の入った黒い着流しを着崩した、擦れた冷たい目をした男が立っていた。

 翡翠は聞き覚えのあるその西訛りに身を竦めた。

「探したぞ水鶏」

 それを聞いて恐る恐る翡翠も振り向かざるを得なかった。
 やはり、そうだ。

「あっ、」

 動揺する翡翠に「どうした翡翠」と朱鷺貴が声を掛ければ。

「若様…」

 唖然と驚愕したように翡翠は言ったのだった。

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