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「捨て身でやろうなど神域を犯すなという話だ小僧。伝統はお前のようなフラッと来た浪人紛いが関わってはならないんだよ」
偉く朱鷺貴は冷たかった。
二人の険悪さに五条は「お部屋に案内します」と逃げる。
言いたいことはなかなか伝わらないものだ。
それから三者、無言になり、空き部屋を案内される。
五条が「ごゆっくり」と告げ、いなくなれば「すんませんね」と皮肉を返したのは翡翠の方だった。
「翡翠はアホなんで正直よくわかりませんね」
「あっそ」
本当はわかっているから、そうやって挑戦的なくせに、いちいち腹の立つから言うのは控えた。
互いに、自分なりに言葉は選んだつもりだが、どうも遠回り過ぎる。
「…あんさんの優しさは時に翡翠を傷付ける」
「お前の無謀さも俺を腹立たせる」
「…わかるけどわかりません」
「あっそ。
はっきり言おうか。何故俺はそんなお前の、例えば親に殺されるだとか、やりたくもないあの禰宜との茶番を見せられるんだ。明日朝発つ。早く体調を直して」
「何故そんなこと、あんさんに言われにゃならんのですか」
「簡単だ。従者だからだ」
「は?」
直過ぎて、一瞬戸惑ってしまった。
どうして惜しげもなく言えるのか。こんな、ろくでもなかった自分に。
「…胸くそ悪いんだよ、そーゆーの」
「は、」
「無理にやる行事なんて修行僧にはいりませんから」
…なるほど。
漸く肩の力が抜けた。
「坊主は万人に平等なんです」
それではっきりわかる。こいつ、本当に口下手なんだと。
「…わてとしては、まぁ楽しくやれるんやけどね」
「なにが」
「翡翠は舞の名手ですから、自分で言いますけど」
「は?」
それでしか自分は認められなかった。
「雑巾掛けも舞も唄も、わてにとったらなんも、変わらん言う話ですわ」
なるほど。
翡翠を傷付けた理由が朱鷺貴には今漸くわかった。
だが、どうにも感情が読みにくくしれっと、はっきり自分を見て噛みついてくる従者に、朱鷺貴は些かやりにくさを覚えた。元来自分も気は強い。
「あんたには多分、わかりませんよお坊様」
これも下手すりゃ、自己の防衛か。
まだまだ若いなお前はと、朱鷺貴は翡翠を睨み付け「へぇ」と低く言った。
「どれ程素晴らしいか見せて頂こうか」
「ええですけど」
「三味線はないな。借りてこようか?それくらいあるだろう、祭事を行うところでは」
「はぁ?」
「そんなに坊様の従者が嫌か翡翠」
黙った。
なるほど。
この坊主若干開き直りやがったな。口下手を良いことに。
「…何故怒ってるんやろか」
「さっき言いましたけど胸くそ悪いって。
別に今は何も、親も郭も捨ててきた筈だったんだがなぁ。何を拘ってお前がそんなに自我を…下にするのかよくわからん」
「バカにしてますか」
「してる。バーカ」
「なっ、」
「じゃぁやれよアホ。別にいいですよ好きにおしぃや!」
「は?」
開き直りすぎてる。
というかガキかよお前。
「…トキさん、」
「うるさい今は話したくないんです。散歩でもしてきますよ」
…なんだこいつは。
「いいです。わてが出ていきますからこのクソ坊主!経文でも読んでなぁ、アホ!」
翡翠は勢いよく立ち上がった。
なんだよなんだよ、お前具合悪かったんちゃいますか?
さっさと翡翠は部屋から出てってしまった。
それから無性に朱鷺貴は腹が立ち「こんのアホガキぃぃ!」と、閉まった戸に向け咄嗟に懐から経文を出して投げつけた。
「ふー、ふー、」と肩を怒らせるが、果たして何に腹が立ったのか。
簡単だった。
そんなつもりじゃないくせに何故か、従者を卑下して怒らせたような気がどこかでしている自分やら、気付かないうちに「自分なんて」と自分を卑下する翡翠に腹が立つのだ。
腹が立っていることで明白化しそうで、より腹を立てるしかない。つまりは、引っ込みがつかなくなったのだ。
だが肩を荒げても仕方がない。
こんな時に経文を読んでも有り難みもない。
「…ふぅ、」
まだまだ修行が足りないらしい。もう少し寛容ならどれだけ楽か。
「…神様ってすげぇな」
皮肉かもしれない一言を吐き、仕方なく朱鷺貴はふて寝した。
しかし、より、巡ってしまうものだ。
「ったく…」
モヤモヤする。
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