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「我が大洞赤城には伝説があります」

 本堂に案内されながら足早に五条は言った。

「守護神がこの神社になったのです。龍神からのお導きです。
 元は人間で国司の娘が、継母から命を狙われたそうです」
「女神様、というわけですね」

 しれっと何事もなく飄々と食いつく朱鷺貴に、翡翠は笑いそうになった。

 なにその無駄な優男具合。あんだけがっついてたくせに。そう言うときだけしれっとしちゃうのねと。

「はい。なので女性宮司がいるのです。不思議と宮司からは女子しか産まれません。男たちは皆宮司の使いです」
「ははぁ〜」

 絶対に「羨ましいな〜」と思ったであろう朱鷺貴の煩悩な相槌。流石は生臭坊主、感心するが半ば惨めだ。この坊主は多分京から女と交わっていない。そろそろ神にもすがりたいのだろうかと翡翠は思う。

「宮司様は毎年その女神としてお役目を果たしますが…そろそろ」
「女神、ではないと?」
「コラ翡翠」

 従者を叱る。しかしながら五条は翡翠を見つめ「そうなんです」とはっきり言うからまた拍子抜けだ。

「しかし引退にはまだ…」
「後継者がいない、と?」
「いや、いるにはいるんです」
「え?」
「なるほど〜、おいくつで?」
「コラ翡翠」
「それが宮司は40なんです」
「ん?」
「そう、40なんです」

 漸くわかったぞ。多分触れてはならないやつだな。

「後継者はおいくつで?」
「コラ、おいマジで」
「16なんです」
「いいのかさっきから」
「ははぁん。なるほど。譲らないのですね」
「はい」
「いいんだ、最早いいんだ」

 五条の若干開き直り具合が却って心地いい。

「女子とはまぁ、いつまで経っても女子ですからね」
「なにお前」
「わてなら宮司を女に出来るいう話です」
「やめなさいよ」
「ホントですか翡翠様」
「え、乗るのそれ」
「乗せましょう」
「だーかーらー!」

 何故か五条が照れたように俯く。
 待てよお前、なんなんだその恥じらいは一体。

「私は不能だと言われた口でして」
「まぁなんて強気な女子で」
「すっごいどうでもいいぞ俺は」

 これは果たして神聖な場で話すことかと、流石に朱鷺貴は心配になった。多分ダメだぞ。俺も不純だが俺よりこいつらあかんぞ多分。

「で、わてがやるのは、なんででしょうか」

 核心をいきなりついてみる翡翠に、一瞬朱鷺貴はヒヤッとしてしまった。現に、五条は廊下で立ち止まる始末。

「…まぁ、16歳ではなかなか勤まらないなと」
「何故ですか」
「うーん」
「公然には出せないような」
「不純すぎるだろ、おい」
「まさしくそれです」
「は?」

 なにそれ。

「…こう…あの…。はい。刺激があるかも、みたいな?」
「どういった意味!?」
「交わるのですか」
「待て、翡翠、土足過ぎる」
「いえ、あの、そうじゃなく」

 今度は朱鷺貴と翡翠が「ん?」とハモる。話が見えなくなってきた。

「宮司様はやるでしょうが、うーん、母親役として?で。
 二人して「やりたくない」と、去年は大変でして」
「つまり?」
「まぁ、母親が子を殺しにかかるのです」

 一変した。
 朱鷺貴が思わず「なに?」と、わりと低めの声で漏らす。

「いや、逃げ延び、龍神さまと結ばれます」
「あー。
 丁度いいですね。実の親子では確かに辛い」
「いや、」
「よございます。やりましょ」
「なんだってぇ!?」

 声をあげる。それは正直なんだか。

「…まぁ、演技ですからトキさん」
「いや、」

 胸くそ悪い。
 急に不機嫌顔になった朱鷺貴だが、翡翠は構わないことにした。

「…で?龍神さまは誰が?」
「私ですね」
「なるほど」

 ふと翡翠は笑ってから、自分よりも目線が高い五条へ、半ば強引に近寄っては、顔を眺めるように顎を取った。

「その娘さんとわてはさぁ、果たしてどちらがええか、試しに娘さんに会わせて頂けます?ねぇ、五条様」

 うわっ。

 より不機嫌になりやがったこの従者。明らかに目が挑戦的だ。

 しかし、まぁ。

「やめろ、マジで」

 それも仕方のないと朱鷺貴は間に入り、翡翠を離して五条を見た。

「断りますね。法師として」

 クソガキ共が、ナメやがって。

「あんた見たところ若いな五条くん。悪いんですがウチの従者は仏教徒です。あんたらにはあんたらの仕来たり言うもんがあるでしょう。我々はそれを尊重してこそだと」
「あらまぁ、ウチの法師は気が短い。
 ナメてんのはどっちだか。わては構いませんのに」
「あ?」
「下手な利己などやめていただけます?仕来たりなんてわてからしたら小さい問題ですなぁ。わてが後ろ黒いこと致しましたかトキさん」
「なんのつもりだ翡翠」

 答えない。
 多分、あんたには一生この劣等なんて、わかってもらえないんだと落胆もした。

 落胆が見え漸く朱鷺貴は「そうじゃない」と翡翠に言い切った。

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