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「朱鷺貴殿、朝やで」

 生温い女の声で朱鷺貴は、はっと目を覚ます。
 朝日、というよりは昼に近い頃合いの日照り、生々しくも暖かい布団の横、手に届く位置には鞘に収まる刀がある。

 襦袢の女が背を向け座り込み、長く乱れた髪に櫛を入れる姿に、昨夜の情事を思い出すが頭は冷えて遠かった。

 片腕つけば「風呂の準備が出来たそうな」と女が気遣いをしてくる。それに生返事で「あー、まぁ…」と答えた。

「それより朝飯に致します?」
「いやぁ…」

 正直腹は減っているが、食う気にならない。
 最近の温さと違う布団と独特な気まずさ。

 起き上がり乱雑に着ていた着物を直して「あぁそうだ」と、思い出した。

「…俺の従者は」
「…お連れ様ですか?」
「うん。あいつは今どうしてる?」
「まぁ、貴方も男なら察して差し上げれば」
「違う」

 可能性は充分にあり得る。
 しかし朱鷺貴はこの見世に入る前の殺伐とした出来事を思い出した。

「…悪いな、いつも起こすのはあいつだったもんでな。若干気まずいのだが」
「あぁ、あんさんら懇ろで?」
「は?」
「お坊さんやし、暗黙だとは思いますが、何分私を抱いたことの方が驚きですけれど」

 面倒だ。

「あのお方は見たところ客商売のお方かとも思いまして」
「…そうだけど、やはりわかるものか」
「想い人への嫉妬であるなら、私は少々それの方が気まずい」
「はっきり言おうか、違うぞ。俺は坊主のわりに女子が好きだな」
「ぷはっ、」

 朝霧はとても、無邪気に笑った。

「お坊様とて男児ですか」
「そうだが?」
「ふはははは、」

 余程おかしかったようで、朝霧は腹を抱えて笑い、それから「あーあ!」と、髪を鋤く手を止めて朱鷺貴に覆い被さるように抱き付いてきた。

 そうだ、3日ほど俺は確かここで寝泊まりするわけだけど。

「まぁ、下人の心配など要らないんやないでしょうか?」

 朱鷺貴が言葉を飲んでいれば朝霧は朱鷺貴の手を取り、自分の乳房へあてがい息を吐く。

 正直、昨日使い果たしたと、「待て待ておいおい」と、その手は自ら引き抜いた。際に、朝霧の着物が少し明け広げられ、形の良い乳房がちらっと見える。俺これを昨日どんだけ揉みしだいてどんだけ食んだか全く覚えていないが、確かに物凄く気持ちよかったと、意識をすれば股間が少し嫌でも反応する。

 「あらまぁ、」と妖艶に笑って触る朝霧の手はねっとりとしていた。それに熱はあり少し頭も沸きそうだが、そこは坊主根性、「待て待て」を再び放った。

「わーかった、わかったけど俺の従者はどないした」
「これです?」
「違うわどれかと言うたらそれは俺だ、じゃなくて!
 あの小僧だよ連れの!流石に待たせている…」

 のかぁ?
 あいつも例えば「あらご立派」だなんて遊女に言われてこうして跨がられていたとしよう、あいつなら「全くお姉さん」だなんて言って朝から盛っているんじゃなかろうか。

 いや。

 果たしてあいつははしたないものだが、どうだろうか。侍をシバきに行ったきり所在がわからない。まぁ確かに自分は忘れてこの女を抱いたわけだが、あいつは一体どうしたんだ。

 あの従者、果たしてどんな顔して女を抱くか、待てよ、いや…。

 考えた。

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