3
少しそうしているうちに、虚ろな表情になり、やがてサナトは寝てしまった。
まぁ、朝の6時だしな。
大方絵の型は出来たので、後は座ってカリカリとイメージの表情を作ろうか。なんならもう一回有料を眺めてはイメージを肥やす。
だが途中でそれも見ていられなくなった。
多分、俺がいままで見てきた普通のAVよりかはまだ、微かながら愛情は見える気がする。あまりにサナくんが「人形」と化しているせいかもしれないが、相手はまぁまぁ気を使っている気はする。
自然体に眠るサナトと、苦しそうなサナくんのギャップに耐えられなくなり、一度手を止めた。
今の汗ばむ表情、だが苦しそうではないな。少し汗を拭ってやっては一瞬嫌そうな表情を浮かべたサナトから手を引いた。
何だってこんなことしてたんだろうな、お前。金がなかったのかな。
この、非現実的な画面の向こうも、今のお前もどうしたって空っぽなのには変わりない。
自我が見えないからなのか。そもそもお前の自我、こうして画面越しに伝わるものってなんだったんだろうな。
それを全部忘れたなんて、こんなに淀んで綺麗なもんかと不思議だ。
俺は勝手ながら少しの自己投影に浸る。
画家として売れてみたとして、今のスランプ、個展すら開けない自分はなんでやってんのかなとか、考えてこなかったわけではない。
これで飯食おうと考えなかったわけでもないが、飽きも来る。俺はそんな大作を出したわけでもないし。
生温さはセックスと変わりない。最近刺激がなかった。そればかりに集う。
俺がなんでここにいるか。正直言いたいことの根拠もないままだらだらしている。くだらない画家に成り下がった。
だがお前には言いたいな。
お前はなんでここにいるのかと。
不思議で仕方ないからやはりまた、描き始めてみる。
多分お前が一番わかってないんだ。
他人が一番心地好かったのかもな。排他的だ。これが実態を掴ませないのだろうか。
そういえばこいつは腹に傷があるんだと思い出し、ちらっとシャツを捲ってみる。
画面にはなかった痕跡。
本能なのかはわからんが、その手は無意識のうちに払われてしまった。
仕方ない。思い出して書こうとカリカリとスケッチに描いていく。
しかしどうにも「サナくん」の、放心状態のような表情は俺から離れなかった。
ダメだ描けねぇ。
ふとパソコンを開き、では、と「佐奈斗」の評判やらを見てみようと思った。
昨日会ったカップルではないが、どうにもゲイビデオでは心配な最後だったようだし。
神月佐奈斗と打ち込んだとき、「神外佐奈で検索する」と、引っ掛かった。
見てみれば、「神外佐奈」のオフィシャルHPがあったが、5年も前から更新が止まっていた。
最後のリンクにどうやら、Webインタビューがあったようで、開いてみた。
まず最初にシーツの上、膝で性器は隠されているが、所謂ヌードがばんと飛び込んだ。どこを見ているのか、しかし儚げに見える。これは一体誰を誘ってんだ。
なるほど、これからゲイビデオに移行するの、わかる気がするぞ。
インタビューは大して読まなかったが、しかしゲイビデオ転身の事実は書かれていない。
試しに所属事務所のリンクに飛んだらページエラーした。
これはつまり、事務所が潰れた、という解釈が正しいのだろう。しかし、一年前の、俺に応募してきた事務所はここではないのか?
怪しさが出てきたぞこれ。
典型的な弱小事務所モデルの末路じゃないか。
しかしゲイビデオは引っ掛からなかったな。
変わりに「神無サナを検索しますか?」が出た。
なるほど、そっちでは「神無サナ」なのね。
案の定ゲイビデオサイトがかなり引っ掛かった。昨日のカップルが見せてきたサイト名、つまりは今日俺が検索したサイトもあった。
検索の中に「ゲイビデオ掲示板」もあった。引っ掛かったということはきっと「神無サナ」という単語はあるんだろう。
見ていけばかなりスレッドがあった。
というか、大盛り上がりだった。
批判的に、「ダッチだよな」だとか「人間味がない」だとか「というかほぼ女」だとか書かれていた。確かに、的は外れていない。
しかし気になったのは、「後半ラリっている」というものだった。
重点的に見ていくと、どうやら、神無サナは途中から人が変わったように積極的、というか狂喜的、躁病みたいだったらしい。なんなら「薬中になり姿を消した」とまで書かれていた。
しかしそれには、わりと同情的な意見ばかりが書いてあった。
掲示板故、どこまで本当かわからないが、神無サナの話題の終盤に書かれていた、
「序盤で体調を崩してそれから撮影頓挫になり、それから見ていない」という、誰が書いたかわからない書き込みには反応が凄かった。
有名な話のようだ。
問題のシーンはカットされているが、神無サナが意識を飛ばしてしまった最後の画像として、一本動画のURLが張り付けてあった。
- 13 -
*前次#
ページ: