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 正直、俺の想像を絶した。

 痩せてしまった神無サナは、行為が始まる前から少し、確かに目の焦点は合っていなかったが、
相手方のマッチョ(どうやらベテランらしいと掲示板で知る)がにやけ面で酒を口移しして雪崩れ込み、カットが変わった。

 肋が浮くような細い身体。
 どうにも過呼吸で、ベットに寝転んで助けを呼ぶような視線で相手やカメラを見つめているが、

「凄く善くなる薬だよ」

と粘着質に男が言ってからまさぐり始めるも、「いやぁぁ!」と、明らかに拒否の叫びを上げている。しかし始まってしまったようで、最後までカーソルを飛ばすと、合間、本当に泣きじゃくっているのも見受けられて。

 最後辺りで再生してみたら、確かに異常な息遣い。10分くらいの動画だった。

 最後に男の顔がアップされたが、掲示板でも書かれているように、サナくんはどうやら声をあまり上げないらしい。しかし、この動画は「いや、ぁぁっ!」と、苦しそうなサナくんの声をBGMに終わっていた。

 意識飛ばした、はマジかもしれない。

 書き込みは、「レイプ?」「そのわりには構成はそっち系じゃないよな…」「相手方、かなり気を使ってるよな」とあり、
「ならかなり壮絶」。
 確かにこの書き込み、その通りだ。確かに相手方は盛り上げようとしているのかもしれないとは、伝わってきた。

 悲鳴のせいか後ろで寝ていたサナトが寝返りを打ったので慌ててパソコンを閉じた。

 振り向いてみれば、起きたらしい。虚ろながら「…あれ?」と、さっきの画像までとは打って代わった自然さ、寝惚けた感じでぼんやりと言う。

「僕、寝てました?」
「え、はい」
「なんかすみません…」
「いや、型は出来たから別に良いんだけど…」

 さっきまでとのギャップに最早俺がついていけなかった。
 余程俺がぎこちなかったのか、「なんですか?」とサナトが怪訝そうに聞いてくる。

「いや…」
「また見てたんですか?」
「え゛っ」
「わかりやすいですね五十嵐さん」

 バレた、即。
 だが本人は気にした風でもなく起き上がり、また冷めたコーヒーを飲み始めた。

 気まずくなってタバコに火をつけ、そういえばこいつタバコダメだっけと思い出し、火を消そうかとしたが、「いいですよ別に」と、こちらを見もせずサナトが言った。

 なんとも言えない気持ちになり、正直タバコの味がわからないような気がして結局すぐに消してしまった。

「…そんなに気を使う必要あります?僕に」
「いや…」

 うーん。

「あのさ…。
 まぁ、あんまり聞くのも躊躇われるけど、君は何故ここに来たの?」
「絵を見てって、言いませんでしたっけ」
「いや聞いたよ?あとここがまともそうな身寄りありそうなとこだったとか」
「あぁ、そうでしたね」
「ここに来る前は」
「病院ですって」

 それって…。

「家族とかはどうしたの」
「正直わからないんですよね」

 果たしてそれは。
 退院出来たのか?

「…退院するにはご家族は」
「身寄りなかったんじゃないですかね、多分。
 だって、会ったことないし」
「はぁ…。それって本当?」
「嫌なら追い出してくれて構いませんよ。一枚描けたなら出てったって」
「いや、描けないんだなこれが」
「え?」

 漸くサナトは不思議そうな表情で俺を見てきた。
 あまり感情は読み取れないが、というかなんだろうか、どうにも興味やら欲が抜け落ちたような脱力を見出だす表情にも、驚きにも見えた。

「…君、まぁ最初に言ってたように、ちょっと幽霊じみてるから」
「怖いんですか?」
「いや。
 絵のような美人のわりに実態が掴めない。それがよりミステリアスに繋がる気はするけど…」

 なんせ、「こんなやつマジでいるんだ」感は正直あるし。ゲイビデオでもなんか、中性的とはいえもう少し他は男子だろう、をやはり感じた。こいつ、まぁ異質だ。

「…僕はてっきり、僕のそれを描きたかったのかなと思ってたんだけど」
「まぁ、うーん。
 何故実態を感じないのかが知りたいと考えたら、どうにも表情が決まらないんだ」
「うーん…」

 サナトは暫し考え込むように、
はたまたただ、放心したような空虚さで宙を眺め始めた。
 しかし映像とは違う。焦点は合っていた。

「…まぁ、僕も自分の実態がよくわかってないんですが」
「うん、まぁ」
「サナトリウムでの僕の話でもしたら良いでしょうか」
「ん?」
「ただただ空虚でしたよ。面会謝絶だし。気が狂うほど何もない」
「…面会謝絶?」
「まぁ、そもそも誰も来なかったらしいですけど。
 ただただ空気吸って二酸化炭素を吐いている気分。でも僕も自分の実態は知りたい」

 そうなのか。
 サナトはそれから俺を見て、切なそうに薄く笑った気がした。それくらいにこいつは表情がわかりにくい。

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