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「五十嵐透の絵を見たとき、僕は自分に、なんか近いものを感じました。ふわふわしていてわかりにくいなと」
「え、はぁ…」
「だからまぁ、よくわからなかったけどアシスタントの面接しようかなと思ったのもありました。それが描くと言われては、いまは…まぁ実態が知れるのかもしれない、は僕に生まれた期待ですかね」
「…それはそれは」

 期待に添えないかも…。
 俺、自分のことかなり大好きだけど実は自信ないし。

「…サナトリウムって。
 いや、僕の場合ですけど。忘れようから始まるのでホントによくわからなく迷宮入りするんですよね。元々覚えていないのに、少し覚えていた、例えば容姿とかも見ることが禁じられたりする。恐らくこれにコンプレックスでもあったんでしょうかね?」
「ん?」
「だからいま変な感じで」
「待って、軽く流された気がするけど。
 つまりなに?君、自分の姿は」
「そのゲイビデオで知った、いや正直知ったかどうかも曖昧なんですが、確かにやけにこう…引っ掛かる、シンパシー?じゃないか?なんかそんな感覚で「自分かな」と思ってますよ。
 けど不思議と、自分だと言い切れるような気がするくらいには同化している気がする…というか」
「マジか」

 一気に喋ったせいか、サナトは少し咳き込んだ。「あぁ…すみません」とか言いながら。

「大丈夫か?
 …最初に言ってた「幽霊だと思って」って…」
「あぁ、っ、はい、」
「あぁ、いーよ無理に喋んなくて」

 少し落ち着くまで取り敢えず「よーし…よーし…」と背を擦ってやろうとするが、どうにも手で拒否られてしまう。

 わりとそれも慣れてきた気もするが若干傷付くよなぁ。俺にそんな事するやつ、新鮮ではあるけどさぁ…。

 落ち着き始めてからまず出たサナトの一言は「なんか嫌なんで触らないでください」だった。

 やっぱ若干傷付くよなぁ…。
 接触障害とか、潔癖とかなんだろうか。

 俺の顔色を見たのかサナトは「いや、すみません」と謝り、コーヒーを口にした。

「…参ったな」
「すみません」
「いや、きっと…」

 仕方ないんだよ。

「…覚えてること、本当にないわけ?」
「そうですね…。気が付いたら病院で、名前は教えられたんですけど。
 なんだろう、でもどこかで、思い出すのが嫌な気もしています」

 ゆったりとサナトは、目の前の宙を見てはふと、次に俺の顔をまじまじと見た。
 改めて、わりと見映えは麗しいが、さっきの映像よりは輪郭がはっきりしている気がする。
 少し、こいつに俺は現実味を見出だしたのだろうか。

 俺もわりとサナトをまじまじと見ていたらしい。
 「ふはっ、」と、サナトが急に吹き出してから「げほっ、うっ、」となり、しかし苦しそうながらウケていた。

 初めてされる反応に若干戸惑っている。
 そんな風に笑われたことないんだけど、俺。

「え。あの…なんで?」

 なにがそんなにウケたんだろう。

「いや、だってなんかっ、うぇっ、」
「あーあーあー、ここで吐かないで困るから」

 マジでゲロ吐きそうな勢いで嘔吐えづいてるけどこいつ。なにがそんなに楽しいの。

「ひっ、あん、あれっす…。
 あんた、あ、あまりに複雑な顔で見てくるから、わ、笑っちゃう…」
「は?」

 え。
 ツボがわからん。
 「いっぺん顔見た方がいいです」とか言われてしまった。

「お前に言われたくなくね?俺は毎日ちゃんと見てるぞ」
「うわっ、」

 そして引かれてしまった。

「まぁ、でしょうね」

 更に納得されてしまった。なんなら少し溜め息を殺したような反応だった。

「鏡すらないところでしたから」
「…そうなの?」
「うーん。なんでかはよくわからないんですけどね」

 なんかそれって。
 どうやって身元とかわかったんだろ。身寄りもなく名前も知らずに恐らく自殺。自宅で発見されたのか、身分証があったのか…。

 ケータイ。

 あの女装写真の返信からここに来た、ということは、ここはケータイでわかったんだろうか。
 だとしたら俺に送られてきたこいつの会社は今、潰れているわけで。

「…身元は何?どうやってわかったの?」
「あー。なんか、面会謝絶だったんで会ってないんですけど、業務用の僕のガラケーを病院に届けた人がいたらしいですよ。ただまぁ、会社?名義だったらしく、あまり手掛かりにはならなかった。
 そこからその人に医者が聞き出したりして、どうにか、元いた住所だとか割り出したらしいです」
「その会社なんだけど…。
 潰れてたんだけど」
「え…?」
「うん、これ。て言っても君が募集要項に書いてたところ」

 パソコンを再び開けば霊長類の心配そう?なんとも言えない表情どアップな静止画像が飛び込む。

 「あ゛っ」と慌てて×を押して閉じれば掲示板。これも焦燥。流れで閉じて仕事ファイルを開く。

 ふと振り向けば「やっぱ見てたんだ」とサナトは俺に呆れ顔だった。

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