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「こんな角度は如何でしょう」

 流石は元モデル。身体には染み付いていますね。

「…そーゆー、たまに調子に乗るのは男らしいな君って」
「まぁね」

 言って自分で吹き出していた。
 わりと笑いのツボとか浅いのな、お前。

「…そんなに面白いか俺」
「最高っすね。いやぁ看護師じゃやってくんないわ〜」
「あ、なるほどね」
「てか、この体勢も大分疲れるんで早く描けません?」
「んー。面白いから後で、で」

 スケッチを閉じた。
 「え、なんなのいままでの話とか」と言うサナトの小言もまぁまぁ然り気無く無視。

「君一回さぁ、死んだなら新たに家事を覚えろホント。あと個展とかのアポとかやってもらおうかな〜」
「なんですかそれ。まぁあまり言える立場でもないんですけど」

 少しくらいは生きる意味とか新たに見つけろよ。そのまま泥酔していくのは目に見えているだろう。

 いや、本人には見えないのかもしれないな。
 俺だって、その頃は明日なんて見えていなかったよ、多分。今だってその日暮らしで、というか自棄になっちまってたりしてな。

 もう少し大人らしい大人をやってみればよかったのかもとか、少し思っていたりしなくもないし。多分、その方が本当は誰かに響くかもしれない。

 だからお前がきっとここに来たのかも、とか、流石に自己陶酔過ぎるのかもしれないけど。

「ちなみに…
 画集って何見たの?」
「あぁ、2005年の「崩壊」ですね。ちょっと、僕この身と障害者手帳だけでここへ来たんで、置いてきちゃったんですけど」
「それ…OKだったのサナトリウム」
「貴方の絵、一見優しそうなタッチじゃないですか。僕、絵のことよくわからないけど」
「うーん、まぁ。よく言われる」

 照れ臭いな。
 13年前のやつって、俺22じゃん。大学出てすぐのやつじゃん。絶賛売れてなくて死にそうだったときのやつじゃん。

「…よく持ってたなぁお前」
「多分中古ですよ。僕その時小学生だし」
「言わなくていいよねそれ」

 まぁ、絶賛売れてない時期だからね。OFFられてるわな。うん。

「しかもサイン本」
「本気で言わなくていいよねそれ!」
「え?気にしますかあんたでも」
「ま、まぁね、まぁね。あの時期は俺の踏み台だからね、別にいーんですけどぉ!」

 見栄を張ってみた。
 じわじわ来たぞ。サイン本っておい。

 確かにあの時期まだ独立前でめっちゃ営業廻ってたから出払ってますけど!いまや絶版なのに。多分その時期のサイン「Toole Igarashi」とか描いてた死にたくなるやつ。

 しかし何故だかサナトは「えっ、」と、少し表情が曇ってしまった。
 なんだなんだ、あら、徐々に切なそう。なに俺悪いこと言った?

「…僕、わりとアレ好きなんで、なんか踏み台とか言われると切ないですね」
「え、え?」
「いやぁ、まぁ僕も言わなきゃよかったんですけど…」

 え。
 何最近の子。よくわかんないんだけど。

「え、なに、ありがとう?って言うべき?」

 Toole Igarashiを?出来れば消し去りたいサインその@なんだけど。

「いや、まぁ、いいんですけど。
 僕あれはまぁ、覚えてないんですけど自宅から持ち出されて渡されたやつで。大分経った…最近ですけどね。僕は気が狂いそうなときに開くことにしてました。
 僕ってこんなの好きなんだなってね。破壊衝動も色鉛筆でなんか薄らいだし」
「…あぁ、ね」

 あの時、確か。

「あれ、色鉛筆しかない時期に出したんだよ」

 全部画材を捨てちまってな。若気の至りだが。

「画材捨てちまってな。売れねぇし。多分あれ出して「崩壊」なんてタイトルとか、すげえなんか炎上商法じゃないけど、まぁなんだろ。最後感出したら売れんじゃねえかな?
も若干あったけど、意外と多分病み気だったのかもね」

 実際は売れなかったけどね。
 言葉にしてもホント恥ずかしくて精神崩壊しそう。

「え、そんな感じなんですか?」
「うんまぁね。いや、でも…うん、ちょっと自棄だった」

 今度サナトはフリーズしてから「へ、へぇ、はぁ…」とか言って、やっぱり耐えられなくて笑ってしまった、そんな感じに「ふ、ははっ、」と笑い始めた。

「正直ですねあんた」
「…いやまぁ、あんま言ったことないけど」

 若干だけどまあ。
 嬉しかったのも本当に少しはあったりして。
 こんな甘いから俺っていまいちなんだろうけど。

「あ、顔に出やすいですね五十嵐さん。若干変態気味」
「な、なに、が?」

 俺が何故か動揺だよ。
 またサナトは笑い出して。

「…まぁ、ちょっと羨ましいですね。自分の良さ悪さ、わかってるのかも」

 …まぁ。
 意外とこうやってシンプルにこいつ、人の心をぶっ叩くよね。とか少し思ったり。

「…まぁ、頑張って手を抜いて描きますわ」
「それってどうなんです?」
「そんなに気を使わないと言うことです。君にはまだ早いかもねサナトくん」

 君、気合い入れすぎたから死んじゃったんでしょ?心の中に入れておく。
 けど、結局生きてるじゃんって、思わせたい気持ちに傾いた。かも。

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