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ケータイの振動にビビって目覚めた。
時刻は11:30。案外寝ちまったな。知らない番号が着信画面に浮かび上がっている。
後ろでもぞもぞ、「ん……」とサナトが起きたのがわかった。そんなことよりもまずは番号を調べようとパソコンを動かせば、一瞬写った「欲求、心理と真相」に、「あっ、」と、サナトが完璧に起床したのがわかった。
調べているうち、3コール目で留守電に切り替わり『あ、もしもし。マスダ探偵事務所のマスダと申します。こちら五十嵐透さまの携帯電話でお間違いはないでしょうか』と、パソコンの検索がそれでヒットしたのが同時だった。
なんだ?それ。縁も所縁もないな。
切れる前にスワイプし、「もしもし」と電話を取った。
なんとなく、サナトが息を殺したのも伝わってくる。
「…はい」
『急用がございましてお電話を差し上げました』
「…はぁ、」
俺にはそんなもん、ないんだけど。
サナトがちょいちょいと、俺のシャツの背を摘まみ俯いていた。
振り向けば昨日の大号泣でブス顔過ぎるサナトに徐々に徐々にツボが押され、「ごっ……ご用件はっ、」と、電話口に半笑いで聞く大変失礼すぎる態度で対応してしまった。
それにサナトは疑問顔だが、どうも自分を指差しているので一瞬だけ考えた。
なんだ探偵事務所って。サナト?何か覚えがあるの「只今人探しをしてまして」何、それってこっちにまでなんか個人情報とか言うものな「奥多摩町警察署で特異行方不明者の捜索願が出されている26歳男性なんですが、」あ、そんなざっくりわかりにくいの?
あれ、26くらいだっけと一瞬わからなかったので「いや、はぁ…」と曖昧になってしまった、そうだ平成3年、多分そんなもんだった、ような。
「いや、え?ちょっと待ってよくわからねぇんですが何がですか?ネットで調べたら確かにこの番号、そちらのようなんですが……」
『あぁ大変恐縮です。そうですね突然でしたよね。はい、詐欺ではなく』
「え、対応変じゃないですか?」
ヤバイこれでは若干面倒な、クレーマーのような、絡み癖難癖野郎のような、しかし間違ったことは言っていない不思議。落ち着こうぜ俺、変だぞ。
更にサナトがトントンとするのでまぁ状況は把握なんだけども。
『…こちらから封書など発送させていただいたのですがご覧になりましたか?』
「封書!?」
ぱっと振り向けばサナトは気まずそうに俯いていた。
てめぇこの野郎、アシスタントでありながらそんなもんを抹殺しやがったのか全く。
『奥多摩の「アリマ神経サナトリウム」様から当探偵事務書にご依頼を承りまして、ご連絡を差し上げました。その方のケータイの発着信履歴に五十嵐さんの事務所のURLがあったので、ホームページの番号へ掛けたのですが、そちらに「神月佐奈斗」という青年がお邪魔しています……よね?』
あぁなるほどね。
サナトがケータイを渡せと手を伸ばして来たのだが、その手が震えている。
「本人に変わりますね」と告げてサナトに渡せば、ふぅ、と一度溜め息を吐いて電話を耳にした。
「……お電話、変わりました」
『どうもこんにちは。増田探偵事務所の』
「マスダさん、ですね。聞こえてました」
声も心なしか震えているようだ。えっと特異行方不明者っ、と。
あったあった。何々……。
殺人、誘拐等の犯罪によりその生命又は身体に危険が生じている恐れがある者、少年の「福祉」を害する犯罪の被害に遭う恐れがある者、あーね。福祉。
『神月佐奈斗さんでお間違いないでしょうか。捜索願が出されていますのでお伝えしなければならないのでお電話致しました』
「すみませんが病院って本当にそこまでやるんですか」
……確かに。謎。さっきから日本語も謎。
行方不明直前の行動、事情に照らし合わせ「水難」や交通事故その他の「生命に関わる事故に遭遇している恐れがある者」、あーね。水難。落ちたんだっけこいつ。
『一応「捜索不受理願」も出されていないようなので病院にお伝えは致しました』
「えっ、」
あー大変だなそりゃ。なんだ捜索不受理願って。そんなん出来るんか。
遺書があること、平素の言動その他の事情に照らし合わせ「自殺」の恐れがある者、あーね。ありまくり。遺書書いたんかなこいつ。
「……もう、知ってるんですか病院は」
『はい、その上で当たり前ですが戻ってこいとは仰っていますよ。特異行方不明者願も取り下げようかという話ですが、ご病気は完治されていませんよね?』
そりゃそうだ。
「精神障害」の状態にあることや危険物を携帯していること、その他の事情に照らし合わせ、自身を傷つけ又は他人に害を及ぼす恐れがある者、あーね。ニュアンスが異なるが確かにそう。飽きてきたなぁこれ。
「病人」、高齢者、年少者その他の者であって、「自救能力がない」ことにより、その「生命又は身体に危険が生じる恐れがある者」、あーね。間違いないね。てか、こんなんネット辞書にあんだ。へー。
「完治なんてすると本気で思ってるんですかっ、」
急に大きな声を上げたサナトはふーふーしながら咳き込んだ。
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