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 さてこの沈黙をどうしたものか、と手持ち無沙汰になった瞬間、と言っていい。
 突然診察室のドアが開き「センセ」と、明るめの茶髪を遊ばせたアイドル顔の青年が覗いた。

 「ハシダさん、」と女医は窘めるかのように呼んだがアイドル茶髪は端から俺をにやにやと見て「ちわ」と短く言った。
 彼は細身で、シャツとダルそうなズボン、だが軽く鍛えていそうなのはわかる、如何にも大学生のようなやつだった。

「どうしたんですかハシダ」
「サナの連れ?」

 俺を指しそう言う…どうやらそう……宇宙人なようだ。

 反応はどうすべきかと女医を見たが「ハシダくん、待合室へ」と至極真面目に窘める。
 だが彼は構わずにずかずかと入ってきては側のベッドに座り「さっきサナが暴れてた」と、核心的な一言を吐いた。

 まさかの、知り合い。

 予想は容易だ、同業者だったやつ…先程女医が言った「職業で……大体の方がなるんですよ」と言いにくそうだった表情、口調を思い出すまでもない。

「ハシダくん、ヤオツ先生でしょ?診察室違うんだけど」
「つまらないこと言ってんね先生。この調子だと今日は2時間くらい待つし」
「私はいまこの人と話してるから」
「この人サナの連れっしょ?さっきあんたら一緒に連行してったじゃん?
 イガラシさんってーの?ちわー。サナ元気?じゃないか、ははは〜」

 こいつ。
 なんかやべぇ。

「ハシダくん出てって」
「サナの知り合い見つかったんだね〜。何?旦那さん?」
「ハシダくんっ!」
「えーっと」

 雇い主と浮かんだらなんか、それをこいつに言ったら凄く面倒臭そうだなと、「五十嵐です」とだけ答えた。

「サナってのは……うーんと源氏名?だったと思ったけど」
「源氏名って!まぁそうそう。俺ミノルくん」
「あぁ、そうなんだね。ハジメマシテ…」

 ミノルくん。

 女医は諦めたように「神月くんの知り合いの子です」と紹介してくるが、被せるようにミノルくんは「元セフレでーす!」と自己紹介しやがった。

 しかしすぐに何故か破顔し、
「っはは!うっそ嘘俺もネコセンだしマジタイプじゃないから安心して!!同室!」
と早口で捲し立てるように笑った。

 おぉ、確かに精神病臭い。

「…知り合いなのは間違いないのかな?」
「うんそー!あ同室ってのは寮の同じ部屋なんだけどさでも俺寝に帰ってただけだし全っ然あいつのことよくわかんねぇけどまぁ好きじゃなくて、でもははっ、失踪してたよねっ!ウケる何であいつ戻って」
「待て待て待てなんと言ってるか早くて全然わからん。悪いな、会いに来たなら」
「にーさん暇でしょちょっと話しない?」
「は?」

 ナニコレ、新手のナンパ?

「ハシダくん良い加減にして」
「なんで?いーじゃん暇なんだよね。ねーイガラシさんどこまで知ってるんです?この調子だとあいつがゲイビ出てたのは知ってそうだけど、ご家族?ならちょっとね」
「いや、違う。ちなみに彼氏でも何でもない」
「彼氏?」

 言ってからミノルくんは「っははははわかるっつーの!!」と笑い始めてしまい、うーん客観的に見ていま非常に場がカオスだと思った。

「あいつがんなんいるわけねーしあんたノンケっしょわかるわナメんなはははっ!んなセンスないファッション見ないもんっ!何その踝ー!」

 なっ。

「………どーもどーも」
「やめなさいよハシダくん、もう、誰か呼ぶよ?」
「顔はそこそこ良いけどね。
 何?暇じゃないのいま。何か待ちっしょ?」
「…どーも。
 あぁ、確かあいつ今点滴でしたっけ」
「そうですけど。安定剤を」
「じゃー暇じゃん?どーせ寝ちゃうしこうしてずっとここいる訳じゃないっしょ?ちょっと借りてくよセンセー」
「私は五十嵐さんとまだ話が」
「男女二人で個室で30分から一時間あまり?えぇ?どうしちゃうの?」
「あのねぇ」
「…んまぁ話は終わって確かに手持ち無沙汰だったよ俺は。何、何の用事?サナトに会いに来たわけでもなさそうだな」
「あっそ?そりゃそうよ、会えないし」
「五十嵐さんもほら、」
「いや、俺もタバコ吸いたくなってきてたんで、ちょっと出たいと思ってました」
「五十嵐さんっ!」
「ははっ、センセ、そゆことだしぃ。大丈夫余計なことしないし喋んないよ。元気かとかそんなんで」
「………ハシダくん、あのね、神月さんは」
「人生リセットっしょ?はいはい。
 じゃイガラシさん、センセー更年期にはまだ早いから出て行こ。また来るね」

 そう言ってミノルくんは俺の腕をガッツリ掴む、やっぱり若干鍛えてるな痛ぇ。
 俺はギャグのような勢いで椅子を乗り捨て、「ちょっと!」と怒る女医を背にミノルくんに連行されるがまま。

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