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…っはっ、
喉が切れそうな息遣いで目が覚める、まず天井は夜色で腹に当てられた手に横目を流して照井の探る目とかち合って世界が急速に身に降り被る。
帰って来た安心感と同じく襲うのは加藤の泣き顔と流れている
Hello,Hello,Hello,How low.Hello,Hello,Hello,How low.Hello,Hello,Hello,How low.Hello,Hello,Hello,How low.Hello Hello Hello.
「…起きた?」
「あぁっ、」
赤トンボのように焦点が合わない、シーロスタット観測として左手を天井と翳してみて1、2…3、453267、埒が明かないが陽はいたのだと照準を合わせる。急降下で地面が冷たかった、あれは一体どうしたって言うんだ。
「ハル、大丈夫かい?」
あぁあ、頭が痛くて眉間にシワが寄ってるのは、わかる。
生易しい顔した照井がすぐ側で寝転がっている。
「……俺はどぅやって、帰って来た、」
自分の声が潰れ気味だった。
「…悠、か?」
額にその左手の甲を置けばなるほど、38.1°くらいには灼熱だろうと自覚した。
はぁはぁ熱い息を吐き喋れない俺に照井は「悠、」と、今度ははっきりとそう呼んだ。
「…ちょっと電気着けるからね」と照井は注意をしてからリモコンで電気をつければ白が視界を直撃してより深い頭痛に変わった、吐きそうかなと嗚咽を噛み殺せば「うん、眩しいよね」とエラーのノイズは消えホワイトアウトした。
「悠、大丈夫か」
「…状況がわからない」
「…2日かな。悪い、薬を変えたんだ」
「…何が、」
「…まずどこまでの記憶があるんだい」
振り返る間もなく「カラオケ」と答える。
照井は起き上がり少し考える表情で俺を見る。少し濁って、多分先が霧のように見えないのだろうと、思う。
「…2日前に病院に迎えに行った。カラオケボックスの前で倒れていたらしい」
「…じゃぁ、そっから」
「そう、ここ2日は陽だった」
「そっか…」
皆目覚えていない。
微塵も、これっぽっちも。こんなことはいままでになかった。
「…君の友達と彼女が病院で立ち会った…」
「…加藤なら友達じゃない。明日香が、なんで」
「加藤と言う名前ではなかったけど…なんだ、うーん名前。なんか古風だったような」
「源蔵か、もしや」
「ああそんな感じの背が高い」
「なんで」
「いや知らんよ。一応君を運んだらしいけど」
「明日香までなんで」
「だから知らんよ。君、ああいう清楚な子が好みなんだね」
このっ、
…叩く気力すらしかし、ない。だから「気色悪ぃなぶっ殺すぞロリコン」と悪態を吐く。
「ははは、そう、少しはさっきより元気だね」
「…あぁ?」
「はいはい、怖い怖い」
そう言って照井はベッドから降り、「お粥持ってきますから」と部屋を出て行く。
惚けそうな白い天井を眺めてまた左手首が目にはいる。1、2、3、…4、5。2日で5本。こうして妄せんだったんだろうか。
それとも俺はハルの嫌なことに気付けなかったんだろうか。
ふいに泣きたくなるのだからその手首を食んで確かめるしかない。鉄の味すらもうしなくて、痛いかどうかもわからないから舌で確かめれば、多分痛い。
この手の感触が恐ろしいのに今は現実に帰ってきてしまった。超新星爆発によりロッシュ限界、といった具合だろうか、今回は。
ハルが俺を絞め殺すか俺がハルをぶっ壊すか。出来れば絞め殺されたい。非常に目覚めの悪い、悲しい夢を見た。だけどなんだか、多分初めてじゃない、夢。
照井は「お待ちどう」と言って粥を運んできた。だが泣いているだろう俺を見て言葉をなくしていた。
「あぁ、さんきゅ。食う」
「…起き上がれる?」
答えもせずに起き上がればふらふらして、「あぁもう、」と、茶碗を側に置いた照井に抱えられた。
「いや、ちょっとくらっただけだから」
「…どうせふうふうしてあげるからまぁいいけど。君ってホントに頭悪いよね」
「…変態には何言われても聞こえない」
「あっそ」
ふうふうされることなく俺は自分で飯を冷まして自分で食った。が、身体は支えられたままで。
ぬるっとした粥は味気も何もなく却って吐きそうな気がしたが、ゆっくりちびちびと食ってる俺に文句も言わずに照井は身体を支えていた。絶対腕はぷるぷるしているのに。
態とだと気付けバカ野郎と当て付けに、「ごちそうさま」のすぐ後にそのまま体重を掛けたら「こらバカ」と叱られた。
「可愛くないガキ」
「いやダルいんだよちゃんと」
「ちゃんとダルいってなんだよ。薬飲んでねちゃんと」
「嫌だ、絶対その薬おかしいだろ」
「おかしいかもしれないけど最初なんて全部そうだし。てわけで君の引き出しの一番目から全処方薬は取り上げました」
「はあ!?何、あれ効いてたじゃんバカなの死ねよハゲ照井」
「うっわー、口悪すぎて逆になんもイラつかないわ」
「逆って何。なんの逆接」
また照井は大人の対応で「はいはい、」と、何かの錠剤を口に入れて俺を真っ直ぐ射捕らえる。こういうときのこいつは大抵、真っ直ぐな子供のように純粋な目をするのが、気に入らない。
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