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 唇を塞がれて流れ込む錠剤は不愉快な味がする、入り込む舌が気持ち悪い。
 生ぬるいんだよ、全部。

 噛み潰してやろうとすれば「いっはっ、」と照井は離れていく。だけど、それを掴んで「鉄の味だろ」と吹き込んだ。

「…機嫌悪いな、このっ、」
「なぁハルはなんかあったんか照井」
「はぁ?」
「嫌なこととか」

 何故か照井は黙り込み、またじとっと俺を見ては、「……俺が聞きたいんだけど、」と、案外根に持ったようで不機嫌に吐く。

「傷増えてんだよ、5本。二日にしては多くてさぁ、」
「…だから、」

 傷に指を這わせてその手を下へと下げるが俺は抵抗のように力を入れる。手首は動かない、だがまぁ痛い。

「ハルを絞め殺す夢を見て起きたんだ、俺」

 途端に照井の力が弱まり、驚いたような顔、言葉をなくしたように息を止めてしまった。

 …なに、それ。

「……俺なんかしたか、なあ」
「…それは俺が聞きたいって」
「多分何度も見た夢なんだよ、なあ、」

 多分いま、表情は崩れている。
 決壊しそうで声も震えそうなんだ。

「生々しくて、ヤケにリアルで、喉元、この骨を砕いた感触とか、俺はどこかで経験があるんじゃないかってくらい手に残ってる。声も出ねぇのにそれは俺もなんだ、悲しくて、どうしょもない癖に力が、入っていってさぁ、」
「陽に何かしたの、今日、」
「……それは俺が聞いてるんだよ照井……!」

 照井はそれからベッドに乗り上げ馬乗りになり、俺の首に手を掛けて見下ろす。
 怒ってるのか、悲しいのか、色々視線の先に浮遊しているのが、見える。

「こんな感じかっ、なぁ、」

 少し手に力が入ればやっと終わるかもしれない。いや、多分終わらないなと「ははっ…っ、」と嘲笑する自分に気付く。

 全部死んじまえばいいのに。
 穏やかになっていく気持ちに「笑うんじゃねぇよ!」と照井が怒鳴って首から手が離れたそれに、耐えるように「ふはは…」と笑うしかない。

「…なぁ照井」

 だけど急に冷えていくんだ、頭の中が。泥のような陶酔感に見たその目だって、悲しいことを知っている。
 だから首でも折れちまえと手を回して抱き締めて、「音楽聞かして」と耳元で言ってみる。

「涅槃でもなんでもねぇ、J-Popの、死ぬほど明るくなりそうなミーハーなやつ」

 絡み付いた泥など一瞬で吹き飛びそうな、そんな躁病じみた、やつ。

「…っ、悠…、」

 俺は大人が泣いたのを初めて経験した気がする。
 後頭部の滑り落ちる髪を何度も緩く引っ張るように撫でては「ダルいからムリ」と告げてみる。

「熱くて、焼けそうだし」

 照井は何も言えずに嗚咽だけを、しばらくは漏らしていた。何度も、何度も刃物を刺して息耐えそうになるような、そんな泣き方。

 生ぬるく、左手首にまた指を這わせ爪を立てたのは傷付けたかったからじゃない。多分、深く傷付いたからだと俺はダルくなる。

 虚脱で、脱走を計る。
 シーロスタットの照準が合う、ホワイトアウトの光で、目がやられてしまう程の目眩に堕ちていた。

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